昭和を代表する歌謡曲ヒットメーカーである古関は、同時に軍歌・戦時歌謡で名を轟かした。古関とその妻・金子をモデルにする『エール』は、この事実をどう描くのだろうか。
もちろん、自分のつくった曲によって多くの若者を戦地に送りこんでしまった苦悩や、戦後の反省などを通じて、反戦的なメッセージを盛り込む可能性もなくはない。だが、最近のNHKを見ていると、どうもそうならないような気がするのだ。
第二次安倍政権以降、「アベ様の犬HK」と揶揄されるように、政権擁護的な報道が繰り返されているNHKだが、ここに来てそれはドラマ企画にも明らかに波及している。
たとえば、今年の大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』は、脚本の宮藤官九郎らがギリギリのところで反戦的な要素を取り込んでいるにせよ、やはり本筋は無自覚な「オリンピック・ナショナリズム」に回収されるような話も見られる。また、つい先日も、安倍政権が新一万円紙幣の絵柄に選んだ渋沢栄一を2021年の大河ドラマの題材にすることが発表された。渋沢栄一は「日本の資本主義の父」などと呼ばれるが、一方で戦前、日本が本格的な韓国併合の地ならしのため行なった“経済的侵略”の先鞭を担った人物でもある。どうしても、安倍政権を忖度した企画ではないかとの疑念が頭をもたげてくるのだ。
朝ドラ『エール』も、こうした流れのなかにあるのではないか。いまのところ、NHKの『エール』番組PRサイトの物語紹介では〈裕一は軍の要請で戦時歌謡を作曲することに。自分が作った歌を歌って戦死していく若者の姿に心を痛める裕一…〉としか触れられていない。しかも、古関は1964年の東京五輪開会式で演奏された「オリンピック・マーチ」の作曲でも知られる。『エール』が放送される2020年前期と言えば、まさに東京オリンピック・パラリンピックと重なる時期だ。最終的に国策的なオリンピック・ナショナリズムに回収される可能性はかなり高いだろう。
いずれにしても、最近のNHKは、報道だけでなくドラマまでも政権の意向を忖度しているようにしか思えない。それこそ古関が作曲した軍歌のように、NHKドラマが“戦意高揚の国策”にならなければよいのだが……。
(編集部)
最終更新:2019.09.25 11:55