9月7日の講演で改憲案を説明する下村氏(撮影・横田一)
山尾氏に秋波を送る一方で下村氏は、安倍政権下での改憲議論を拒否する立憲民主党の枝野幸男代表を名指して「自民党の条文案に反対なら反対で憲法審で議論すべきだ」と批判した。野党にくさびを打ち込んで、山尾氏に代表される改憲論議賛成派を取り込もうと画策しているのは明らかだ。
その分断工作は成功しつつあるようにみえる。下村氏の"ラブコール”のような呼びかけに山尾氏は「(講演の)30分の中で何度も名前を挙げていただいて、ありがとうございました」とお礼をした後、こう続けたのだ。
「(下村氏に)『秋の国会はCM規制の話もするけれども(改憲の)中身の話もすると両方走らせたらいいのではないか』と言っていただいて、私はそう思っているのです」
山尾氏は下村氏に丸乗りしようとしている感じだが、しかし、下村氏や自民党の本質が変わったわけではない。実際、講演後の質疑応答では、下村氏はこれまでとまったく変わらない改憲の詐術を繰り返した。司会者が、「『今回の(自衛隊明記の)加憲で今よりも自衛隊が出来ることが拡大するわけではない。今の自衛隊は合憲だから』という話をされているのですが、今の自衛隊というのは、いわゆる安全保障法制が通って以降の一応、限定的とは言っても集団的自衛権が行使できて、世界中で活動できる。その自衛隊が合憲になるということですか」という質問に対して、下村氏はこう答えたのだ。
「(自衛隊明記と)平和安全法制と直接は関係ありません。つまり憲法で自衛隊を明記することは、自衛隊の存在そのものを憲法によって位置づけるということで、そのことによって今の平和安全法制のようにさらに拡大解釈をさせることではなく、我々としては元々『平和安全法制は合憲だ』と位置づけているわけですから、平和安全法制は平和安全法制として位置づけるし、自衛隊を憲法に位置づけることは直接連動する話ではないと思います」。
そして、こんなやりとりが続いた。
司会者 もともと合憲だと思っているのであれば、それで(平和安全法制で)出来ることは全部合憲だと。もともと「違憲だ」と思っていないと。
下村氏 ですから自衛隊を憲法に明記することによって、さらに合憲化させようのではなくて、元々合憲なのだから。