程度の差こそあるが、他の本も似たり寄ったりと言っていい。表向き「韓国という国家」や「文在寅政権」を批判しているだけのように振る舞っていても、いつの間にか「朝鮮人は〜」「韓国人は〜」などと民族や国籍を一括りにして、「嘘つき」だの「犯罪を犯す」「病気」などと、ネガティブな「性格」「感情」「気質」の持ち主と認定する。たとえば、鈴置高史『米韓同盟消滅』にはこんなくだりが出てくる。
〈韓国人は突然に自信を付け、世界は自分の思うようになると信じ込んだ。〉
〈韓国人はもう「反日」ではない。彼らを突き動かすのは「日本を卑しめたい」との衝動なのだ。〉
〈世界中の人々が「韓国の方が日本よりも偉い」と言い出すまで、世界を舞台にした卑日運動は収まらないだろう。韓国人が中二病にかかっている限りは。〉
あるいは、「人種差別ではない」「国民性の話はしていない」などと予防線を張ったうえで、陰謀論やレッテル貼りを展開することにより、読者が韓国(人)を「日本(人)の敵」に認定するよう誘導していく本もあった。高橋洋一『韓国、ウソの代償』のこのくだりなどは典型だろう。
〈自民党の中には「やはりスパイ活動防止法を作ったほうがいい」という意見がだんだん増えている。
〔中略〕
実はマスコミには意外と外国人が多い。筆者の知る限り、NHKにも在日外国人は多い。だから反対するのかもしれない。もちろんその中には在日韓国人だっているし、出版社にも結構多いはずだ。〉
〈国民性の話はあまりしたくないが、韓国は小が大に事える、強い勢力に付き従うという「事大主義」に取り憑かれている。これは完全に半島根性で、強いものに巻かれて弱いものに強く出る。だからずっと中国に依存してきた。〉
同じ右派陣営の差別扇動言説を無批判に紹介し、「だとすると」などと言葉を継いで悪印象を強めていく手法も、嫌韓本の定番中の定番だ。櫻井よしこ、洪熒『韓国壊乱 文在寅政権に何が起きているのか』では、櫻井氏がこんなことをもっともらしく語っている。
〈櫻井 日本では「韓国が慰安婦問題で虚偽を大きく騒ぎ立てる心理の背景に『中国が一番で、韓国が二番、日本が三番』というような儒教的な華夷秩序があるのではないか」と指摘する人もいます。韓国人のほうが日本人より優れているという通念と自負心、自尊心を満たすために、日本を貶め続けることが必要ではないか、と。ところがもし、本当にそんな考え方が通るのだとすれば、そういう世論の前に、事実はどこかへ飛んで行ってしまう。事実や合理性を離れ、印象や思い込みによる言動が強くなります。〉
また、これらの本には、歴史修正主義を振りまくものも含まれているが、そこにも朝鮮への蔑視・差別意識がダダ漏れになっている。極右ヘイト雑誌「WiLL」の版元ワックから出版された『韓国・北朝鮮の悲劇』は、右派評論家の藤井厳喜氏と古田博司・筑波大学院教授の対談本だが、こんなやりとりがある。
〈古田 日本が朝鮮半島を植民地にしたと言われるでしょう。でも、日本が朝鮮にいった時は国庫が空でした。そして、王様が「好きにはからえ」と言って、五人の大臣に国を丸投げした。これは記録に残っています。その結果、日本に併合された。だから侵略でも何でもない。
藤井 自壊です。
古田 日本からすれば、そんなころに関与したというのは不運としか言いようがないんですがね。
藤井 ある意味では日本は朝鮮を助けたけれど、その助け方が間違っていたと思います。何が間違っていたかというと、朝鮮人をまともな近代的国民にしようという「変な考え」を持ったことです。〉
ちなみに、藤井氏はこの対談本で性的マイノリティへの差別意識もむき出しにし、積極的に差別の扇動すらしている。〈たとえば同性愛者が基本的に人間として価値が劣るわけではありません〉と予防線を張りつつ、こう述べている。
〈ただ、異常か正常かといったら、それは異常です。異常だからまた楽しいのだろうと思う。倒錯の世界は快楽があるらしいし、その人たちから快楽を奪ってはいけません。〉
そして性的マイノリティの結婚について〈ご本人が幸せならいい〉とエクスキューズを入れつつ差別語まで使ったうえで、こう断じる。
〈しかし、子供には「あの人たちはちょっと普通ではない」ということが教えられないといけない。私はそれだけだと思います。〉
いかにこの種の本が差別肯定の思想に根ざしているかがわかるというものだ。