あおり運転を取り締まることが悪いとは思わないが、しかし、一般人の殺人でもない犯罪に対して、ここまで私刑のような大量報道を展開するというのは、どう考えても異常だろう。
しかも、この傾向は今回だけではない。このところのワイドショーやテレビのニュース番組を見ていると、一般コンビニの100円のセルフコーヒーで150円のカフェラテを入れて逮捕された男性のような、一般人の微罪や迷惑行為、ご近所トラブルを針小棒大に報道し、凶悪犯罪者のように糾弾するケースがやたら目立っている。一方で、安倍政権の不正や不祥事については、週刊誌が報道してもほとんど後追いしようともしない。これは、メディアの本来の責務を放棄しているとしか思えない。
しかし、ワイドショースタッフに言わせると、これはむしろ表裏一体のものなのだという。
「一般人のどうでもいいような犯罪を集中的に取り上げるのは、タブーだらけで、ワイドショーがやれるネタが少ないからですよ。政治がらみは、政権や自民党がうるさいのでなるべくやりたくない。芸能スキャンダルも大手事務所所属が怖くて触れられない。そんな時に、一般人の微罪や迷惑行為で面白い映像や証言を入手して放送してみたら、視聴率が良かった。そうなると、一斉に『徹底的にやれ』となるわけです。我々も内心では、こんな必死でやるようなネタかよ、と思うんですが、しようがない」
マスコミ、テレビの志の低さには呆れる他はないが、しかし、恐ろしいのはこうしたワイドショーの報道姿勢が確実に、国民世論に悪影響を与えていることだ。本当は政治腐敗や不正、貧困や年金問題など、国民が怒るべき問題は山ほどあるのに、身近でわかりやすい“悪”を大々的に騒ぎ立てることで、政治や権力チェックに対する関心がどんどん薄まっていっているのだ。
しかも、今回のあおり運転報道が世論の支持を受け、視聴率も好調だったことから、ワイドショーの“一般人の犯罪糾弾”傾向はますますエスカレートしていくだろう。
こうした状況に一体誰がほくそ笑んでいるのか。その異常な報道の裏に何があるのか。わかりやすい事件に単純に怒りを向ける前に、どうかそのことを冷静に考えてみてほしい。
(伊勢崎馨)
最終更新:2019.08.20 10:12