そして、恐れていたことが起こってしまう。2017年5月に福岡県北九州市で事実上、簡易宿泊所の代わりとして運営されていたとみられるアパートが全焼し、日雇い労働者らが6人死亡。同年8月には秋田県横手市のアパートで火災が発生し、生活保護受給者らが5人死亡した。さらに、昨年にも、北海道札幌市にある生活困窮者の自立支援施設で火災があり11人が亡くなった。こちらも、おもに犠牲となったのは生活保護を受けている70〜80歳代の高齢者だったという。
憲法25条には、《すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する》とある。最近では、山本太郎が党首をつとめる「れいわ新選組」が空き家や団地を活用した「初期費用なし・安い家賃」の公的住宅の拡充を、共産党も公営住宅の増設や家賃補助制度の創設を参院選公約に掲げたが、本来なら、2015年に11人が犠牲となった川崎市の火災を受けて、こうした政策を実行するべきだったし、その後も数々の死亡者を出す火災が相次いでいるというのに、安倍政権には根本的な対策に乗り出そうという素振りさえ見られない。
いや、それどころか安倍政権は、2018年10月から生活保護受給額のうち食費や光熱費などを3年かけて国費ベースで年160億円もカットするなど、さらに困窮者の生活を追い込む政策を打ち出しているのが現状だ。
京アニの放火殺人事件も、川崎をはじめ全国で多数の貧困者が犠牲となっている火災事故も、ともに比べることなどできない痛ましいものだ。にもかかわらず、かたや迅速な支援策が打ち出され、かたや対応もとらないまま犠牲者を出しつづけている──。これはいったいなぜなのか。
ひとつは、安倍政権が票になるかならないか、で支援を判断しているという可能性だ。秋葉原での街頭演説会やニコニコ動画との蜜月ぶり、党広告に人気キャラクターデザイナー・天野喜孝氏を起用したことなどからもわかるように、自民党はいま、若者やゲーム・アニメファンなどの取り込みを図っている。京アニへの迅速な支援表明は、安倍政権、自民党の支持拡大につなげようという意図があることは間違いない。