もしそうなら、日本の言論状況もいよいよロシア並みになってきた感じがするが、映画『新聞記者』の宣伝活動には、この直接的な妨害以外にもうひとつ、大きな障害があったようだ。
それは、映画『新聞記者』がテレビのプロモーションをことごとく拒否されているという問題だ。周知のように、人気俳優が出演する映画が公開される際は、その俳優たちがテレビのバラエティに出演し、映画の宣伝を行うのがパターンになっている。
『新聞記者』の場合も人気俳優の松坂桃李が出演しているが、しかしテレビでは『新聞記者』についてはほとんど取り上げられなかった。こうした事情についても、前出の配給会社の宣伝担当者に聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「たしかに、テレビあまり扱ってくれませんでしたね。主演のシム・ウンギョンさんや松坂桃李さんらの舞台挨拶などは紹介されましたが、そのときも作品の内容は紹介してもらえませんでした。そもそも政治ものの映画パブリシティはマスコミのみなさんはあまり積極的ではないのですが、今回は特に“選挙前”と言われて。私たちは“公示前だからいいんじゃないか”と思ったのですが、難しかった」(宣伝担当者)
「選挙前」などと言い訳をしているが、テレビが不自然なくらい『新聞記者』のことを紹介しようとしなかったのは、同作が安倍政権の不正を描く映画だったからだ。
テレビで芸能人の政治発言がタブーと言われている状況について、実際は「政治発言がタブーなのではなく、政権批判がタブーになっている」こと、背景に「安倍政権批判をした芸能人を起用すると、抗議が殺到する」という問題があることは、リテラでも散々指摘してきたが、まさに、『新聞記者』でも、同じような構造で、自主規制がしかれたのである。
公式サイトへのサイバー攻撃に、プロモーション拒否。政権批判を封殺する圧力が新聞やテレビだけでなく、映画にまで及び始めている状況に暗澹とさせられるが、救いは、こうした妨害にもかかわらず『新聞記者』の観客動員が好調なことだ。公開初週に比べて翌週は通常、動員数が下がることが多いが、『新聞記者』の場合は逆に105%と増えている。興行収入も2週目が終わった段階で約2億円と、社会派映画としては異例の結果を残している。
大手マスコミが政権に忖度、萎縮し、安倍応援団のがなりたてる声ばかりが目立つ昨今、この国の政権権力や問題に正面から向き合った作品が評価され、多くの人々が映画館に足を運ぶ。こうした動きが今後、さらに大きなものになっていくことを強く望みたい。
(伊勢崎薫)
最終更新:2019.07.10 08:33