この問題が発覚したのは、金融庁報告書問題をめぐって19日におこなわれた野党合同ヒアリングでのこと。出席していた厚労省の伊澤知法年金課長は、“他部局からの伝聞”として、こんな話をおこなったのだ。
「大臣から最近、『非正規と言うな』と言われている」
「非正規の『非』が、働いている人に対して(の配慮として)どうなのかという観点だ」(東京新聞20日付)
配慮だと言うが、ではどう言い換えているかといえば「フルタイムで働いていないような方々」。まるでフルタイム以外の労働者は出来損ないであるかのような言い方で失礼極まりないが、問題なのは、年金の問題にしても、老後不安が大きいのは、言うまでもなく非正規労働者だということだ。「非正規労働者」という用語を使わないことで、低賃金かつ正社員と同じ社会保障が受けられないケースが多い非正規をめぐる問題を「ない」ものにしようとしているのではないか。そう考えるほかない。
そして、この「非正規」と言わないという方針も、安倍首相が打ち出したものだ。2018年1月の施政方針演説のほか、安倍首相はことあるごとに非正規と正社員の待遇格差について言及し、「『非正規』という言葉を、この国から一掃してまいります」と宣言してきたからだ。
騙されてはいけないのは、安倍首相はけっして「非正規雇用をなくす」あるいは「正規と非正規の格差をなくす」と言っているわけではない、ということ。たんに「非正規」という言葉を使わない、というだけの話で、実際に安倍政権下で増えた雇用の約7割は非正規雇用である上、抜本的な格差是正策は打ち出されていない。
現実に認識・指摘されている問題を「ない」ものにするため、言葉を削り、言葉を封じる。──そうすれば安倍政権は安泰かもしれないが、その結果、年金制度の破綻や格差拡大といった問題のツケを払うのは国民なのである。
(編集部)
最終更新:2019.06.22 02:29