実際、こうした年金に踏み込んだ文言は、今月6日の時点までは存在していた。この原案は、今月6日におこなわれた財政審の会議において非公開で議論されたという(朝日新聞21日付)。ようするに、6日時点の原案には記されていた年金給付水準や自助努力などに言及した文言が、19日までの約2週間のあいだに、きれいさっぱりなくなっていたのだ。
この間に何があったのかはすでに報道で明らかになっている。10日の参院決算委員会で安倍首相が年金問題の追及を受けた。この日、安倍首相は「金融庁は大バカ者だな。こんなことを書いて」と激怒。それによって首相官邸が動き、「初期消火に失敗したら建物ごと燃やすしかない」と判断。菅義偉官房長官が司令塔となって11日午前に金融庁と財務省に連絡をおこない「報告書を受け取らない」という指示を出したという(朝日新聞19日付)。自民党の森山裕国会対策委員長が「報告書はもうないわけですから。なくなっているわけですから」と述べたのは、翌12日のことだ。
こうした経緯を考えれば、安倍首相の激怒にはじまって火消しならぬ「建物ごと燃やす」手段に出た官邸からの指示により、財務省が建議から「不都合な」文言を削除した。そういうことではないのか。
事実として示されている年金の問題を「ない」ものにし、国民が抱く不安に対し、責任ある説明をおこなうことさえシャットアウトしてしまう──。とてもまともな国家がやることとは思えないが、「不都合な問題はなくせばいい」という安倍政権の乱暴な姿勢は、別の問題でもあきらかになった。
というのも、厚労省では根本匠大臣から「非正規(労働者)」という用語を使うなという命令が出ている、というのだ。