警察庁もポスターなどで返納をさかんに後押ししているが…
ドライバーによる暴走事故が相次ぎ大きな社会問題となっている。その原因について“高齢者によるブレーキとアクセルの踏み間違え”との報道がなされるなか、ネット上ではマスコミが触れない別の要因が盛んに指摘されている。それは「事故を起こしたのはトヨタのプリウスだ」ということだ。
たしかに、最近報じられた事故の多くにプリウスが関与していることは事実だ。たとえば今年4月、87歳の元通産官僚による池袋の暴走事故も運転していたのもプリウス、5月に千葉県市原市の公園に65歳男性が突っ込んだのもプリウスだった。またつい最近の6月3日、大阪市で80歳男性が歩道に突っ込んだのもプリウスαで、過去にさかのぼってもプリウスに乗るドライバーがいくつかの重大事故を起こしている。
そのため、ネット上ではいま“プリウスミサイル”との言葉がホットワードになり、さらには「相次ぐ暴走はプリウスのシフト操作性の特殊さが原因」なる情報が出回っている。
ネット上で指摘されている“プリウスミサイル”の理屈はこうだ。まず、プリウスのシフトレバーは、ニュートラル(N)、ドライブ(D)、バック(R)にシフトしても、そのまま保持せず原点位置にレバーが戻る。その後、何かの拍子にシフトが右へ倒れるとNレンジとなる。それに気がつかない運転者からすればブレーキが効かず、アクセルを踏んでも無反応。ゆえに「Nでアクセルを踏んだままDにシフトすれば急発進」(=プリウスミサイル)との説である。また、NからDやRにシフトする際、ブレーキを踏まなくてもよい構造が急発進を誘発するとの指摘もある。ほかにも「プリウスのペダルが通常より左に配置されているせいで踏み間違いが起こりやすい」なる主張もよく見られる。
こうした「原因」がまことしやかにネット上で流通している一方で、専門家からは反論の声があがっている。
たとえば、自動車評論家の国沢光宏氏は、シフトの問題について〈PレンジからDレンジまで直線で操作できるタイプのシフトレイアウトより、Nレンジを使わない(入れ方が解らない人も多いと思う)プリウスの方が安全。ミスしてもギアは入らない方向。通常の一直線シフトより間違いなく飛び出す可能性少ない〉〈暴走するというプリウスで言えばNレンジは事実上使わないため、むしろ安全です〉と説明(「Yahoo!個人」4月29日付)。“プリウスミサイル”説を否定している。
たしかに、本サイトも実際に車を運転するなどして様々に検証したところ、ネット上の指摘は正確とは言いがたかった。たとえば、「Nでアクセルをベタ踏みしDにシフトする急発進」は絶対にないとは言えないが、そもそも、こうした「急発進」は、別にプリウスに限った話ではなく、他のAT車でもありえることだ。ペダルの配置についても、たしかにプリウスはブレーキが左に寄っているが、それが踏み間違えの決定的な原因になるとは断定できなかった。
また“プリウスミサイル”説をめぐっては、ネット上の流言飛語も生んでいる。6月4日、福岡市で81歳男性が交差点に猛スピードで突入し、同乗の妻とともに死亡した事件では、当初、ネット上で「またプリウスミサイルか!」などといわれたが、その後、別の車種だったことが判明。共同通信などのマスコミも「デマ情報が拡散するネット社会」に疑問符を投げかけた。さらに言えば、社会的関心を集めた事故で運転されていたのがプリウスだったのは偶然にすぎず、そもそもプリウスは国内での流通量が多いので確率的にもおかしくはない、と考えることもできるだろう。
しかし、である。プリウスが100パーセント安全かといえば、それもまた断言できない。というのも、プリウスは他の同程度売れている車種と比べて、ブレーキ関連のトラブルの報告が突出して多いことは事実だからだ。