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ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第31号

透析病院で院内感染対策を訴えた看護師がパワハラ被害に!「きれいごと言うな」「金がかかる」と使用済み注射針を…

 その後、社外の労働組合に加入し、団体交渉を申し入れ、休職期間(所定では1カ月しかなかった)の延長、労災申請手続への協力、職場環境整備について議論するも、病院は聞く耳を持たなかった。

 結局、うつ病がわずか1カ月で治るわけもなく、休職期間満了で自動退職扱いとなってしまった。

 その後、労働委員会を舞台に、病院の対応の違法性が争われることになった。

 しかし、労働委員会等での最終解決を待っていると、この病院で院内感染が現実に生じ、取り返しのつかない状態になってしまうことが懸念された。唯一院内感染対策を精力的に進めていたTさんが職場から追い出されてしまったため、対策はさらにおざなりにされることは明らかであったためである。

 そこで、組合は、地元の保健所に指導を要請するとともに、県議会でも追及してもらうという取り組みを開始することにした。保健所もまた、この病院のひどさを問題視し、立入検査が何度も行われ、Tさんが指摘していた事項を是正するよう指導する指導文書が出されることとなった。

 労働委員会では、職員に対する尋問も実施されたが、出廷した職員自身の口から、「病院の中は物が散乱していた」という証言が出てくるほど、院内感染対策の稚拙さが浮き彫りとなった。

 労働委員会のなかで、解決の道筋が探られた結果、社会的に見て相当な内容の解決が図られることとなった。

 保健所からどのような指導が出されたかといった本件についての詳細は、組合のホームページに情報が出ているので、ぜひご覧いただきたい。

 職場環境を整える気のない経営者は、職員や顧客に対しても冷たい。そのことを実感させられた事件であった。

 円満解決が図られたものの、ご本人が受けた精神的苦痛が慰藉されるにはほど遠い。特に今回は、うつ病にまでかかってしまい、キャリアを壊されてしまったのだから、なおさらである。

 パワハラを行った経営者には、厳しい罰則が加えられる世の中になってほしいと、切に願う次第である。

【関連条文】
パワハラの違法性 民法709条
職場環境整備に関する会社の責任 民法715条、労働契約法5条

(弁護士 笠置裕亮/横浜法律事務所 https://yokohamalawoffice.com/

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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2019.05.10 10:59

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