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中村文則がジブリの雑誌で語った安倍政権批判に踏み込む理由「言うべきことを言わないのは読者への裏切り」

 これはまさに本質を突く分析と言えるだろう。しかし、中村氏自身はまったく逆で、時代の空気に抗するように発言しつづけている。それは、「大きな流れが一方的に傾いてしまうと、もはや止めることができない」「いま言っておかないと手遅れになるかもしれない」と感じているからだろう。

 だが、もうひとつ、中村氏の背中を押していることがある。それは「言うべきことを言う作家が少ない」という問題だ。

「新聞などに登場するのもメンバーが限られていて、今度はこの人かと言うような感じで、まるで持ち回りみたいになっている。こんな状況じゃなく、みんなが言ってくれるなら、僕もときどきは言うかもしれませんが、これほどは発言していなかったかもしれません。
 それにやっぱり、読者への裏切りだと思うんです。社会について僕が危機感を持っていなかったら、言う必要なんてない。でも、現実にマズいと感じ、この辺で止めておかないと大変なことになると思っていて言わないのは、それはビビって言わないということですよね。それは読者への裏切りじゃないですか。そんなヤツが書いた本、面白いのかと思いますし、おびえて何も言わない、思っていることを言わない作家の本なんて、そんなものが面白いのかって、どうしても考えてしまうんです」

 ヘイトで感情を煽る商売に精を出す輩が跋扈するなかで、こんな真摯な姿勢を持つ作家がまだいたのかと、正直、心を打たれた。しかし、それは同時に、孤独との戦いでもある。中村氏は対談の最後、相手の青木氏に冗談交じりにこう語りかけている。

「そういうジャーナリストの人だって、もはや限られていて、名前を挙げて数えられるくらいしかいない。でも、やっぱり一定数はいるんですよね、きちんとモノを言う人って。青木さんもそうだし、作家でも一定数はいる。それがある意味で希望でもあるし、人間社会の不思議でもある。そこは救いです。とはいえ数少ないから、こうなってくるとお互いちょっと励ましあっていかないとやっていられない。でないと辛すぎます(笑)」

 政治的発言や政権批判が社会においてタブー化するなか、思考停止に陥った現状に真正面からものを言い、いまこの時代が失った「考えること」「想像すること」の意味を伝えようとする。あえて孤独な、警鐘をならす“炭鉱のカナリア”になることを選んだ中村文則という作家に、エールを送りたい。

最終更新:2019.04.08 09:39

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