そもそも、安倍首相は第一次内閣時、宮崎礼壹・内閣法制局長官によって解釈改憲を阻まれたことから、第二次政権では集団的自衛権行使容認派の外務官僚で元フランス大使の小松一郎氏を内閣法制局長官に抜擢するという異例の人事をおこなった。
集団的自衛権を行使容認するためには、それまでの慣例も打ち破り内閣法制局の勤務経験もない外務官僚を据える──。この“暴挙”には、自民党の重鎮である山崎拓・元副総裁が「法治国家としてちょっとどうなのか」、同じく古賀誠・元幹事長も「あの人事でそういうこと(解釈改憲)を始めることには、率直に怖さを感じた」と非難したほどだった(西日本新聞2013年8月4日付)。
しかし、2014年5月に小松氏は体調不良で長官を辞任、本来なら宮崎氏の後釜だと言われていた横畠氏が後任となった。そのため、安倍首相が横畠氏を昇格させた際には「面従腹背か」と囁かれたのだが、蓋を空けてみれば、横畠氏は小松氏以上の“忠犬”ぶりを発揮。憲法学者や内閣法制局OBをはじめ、あらゆる法律家が憲法違反だと断じ、それまで内閣法制局が40年以上も違憲としてきた集団的自衛権行使を合憲と判断したのである。
しかも、そうした判断の裏側で、横畠長官が信じがたい対応をとっていたことも判明している。
たとえば、集団的自衛権行使容認の閣議決定がされた際、内閣法制局が憲法9条の解釈変更について内部での検討過程を公文書として残していないことが発覚。このスクープを報じた毎日新聞の日下部聡記者は、2015年10月7日の記事で、内閣法制局が解釈変更についてどのように対応していたのか、横畠長官の動きとともにこう綴っている。
〈横畠氏は閣議決定前に与党政治家と非公式に会い、憲法解釈の変更に合意していたようだ。法制局は閣議決定前日に案文を受け取り、翌日には「意見なし」と電話1本で回答している〉
内閣法制局の内部ではなく、与党の政治家たちとのあいだで集団的自衛権の容認は合憲との前提で策を講じ、電話1本で解釈改憲を容認した──。当初、安倍首相が小松氏に課そうとした役割を横畠長官は見事に果たし、独立性や中立性、法解釈の整合性・妥当性などまるで無視して立ち回ったのだ。