これでどうして、「現役自衛官幹部から聞いた」という安倍首相の発言が嘘でない証明になるのかさっぱりわからないが、しかし一方で、安倍首相がこの織田氏の文章を元にしていた可能性じたいは捨てきれない。というのも、安倍首相と織田氏がこのエピソードを語るようになった時期がほとんど同じだからだ。
前述したように、安倍首相がはじめて「お父さん違憲なの?」エピソードを披露したのは2017年6月24日、産経新聞が全面サポートする「神戸『正論』懇話会」講演会後のこと。ところが、織田氏はこのエピソードを、その一週間後、2017年6月30日に発売されたまさに産経新聞社発行の「正論」8月号に書いていた(「自衛官は自らを肯定する憲法を守りたい」)。これは偶然なのか。
しかし、もしネトウヨの言うように、織田氏の文章が安倍発言の根拠なのだとしたら、それは逆に安倍首相のインチキを証明することにしかならない。というのも、織田氏は現在67歳。「小学校か中学校の」息子から「お父さん、自衛隊は違憲なの?」と聞かれた時期となると、おそらく30年くらい前のことだと推測できるからだ。
安倍首相がこのエピソードを語り始めた頃から、「自衛隊への批判が強かった70年代、80年代までならいざ知らず、世論調査で90%近い支持のある現在、そんないじめがあるとは思えない」という懐疑的な声が圧倒的だったが、織田氏の「体験談」も、古い昔の話にすぎなかったのである。
実際、織田氏自身も前掲「正論」17年8月号のなかで、こう書いていた。
〈さすがに今は「自衛官の子弟」というだけで、学校で先生たちから虐められることはないだろう(そう信じたい)し、自衛隊は国民に既に定着したから「加憲」しなくてもよいではないかという護憲派もいる。〉
ところが、安倍首相はこのエピソードが「数年前、中学校に入った直後」と言っているのだ。もし、安倍首相が織田氏の書いた文章を元にしていたとしたら、インチキもいいところである。
こういうと、安倍応援団やネトウヨはきっと手のひらを返し、「安倍さんが言っているのは織田氏のことじゃない。ほかにも、同じ目にあった自衛官はいる」と言い始めるだろう。