あまりの論理の破綻に呆れるが、その前に、この批判じたい、かなりの誇張表現が入っているだろう。そもそも、自衛官の募集関連活動は主に各地にある自衛隊の総合窓口「地方協力本部」が行なっている。自衛隊の試験には防衛大学校や幹部候補生、一般曹候補ほか様々な種類があるが、防衛省の自衛官募集ホームページではいずれも〈受験にあたっては、事前に志願票を最寄の地方協力本部へ提出してください〉とある。
その上で言うと、たしかに、自衛隊法97条では、自治体の長は〈自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う〉と記されている。「募集に関する事務の一部」とは、募集期間の告知や市町村を窓口とした志願票の受理等(自衛隊法施行令114条ほか)を指す。この自衛官募集事務をめぐっては70年代に“本土復帰”したばかりの沖縄で多くの革新自治体が拒否した例があった。
しかし、現在ではほとんどの自治体で自衛官募集事務は行われている。いや、それどころか、防衛省・自衛隊は募集協力の名のもと、自治体に住民の個人情報を取得し、自衛官募集のダイレクトメールを送りつけるなどの行為の違法性すら指摘されているのだ。
たとえば、2014年7月に安倍政権が集団的自衛権行使容認を閣議決定したのと同時期には、高校3年生などに自衛官募集のDMが大量に送付され、ネット上などで「現代の召集令状か」などと不安視する声が多数あがった。なぜ、自衛隊が国民の個人情報を持っているのかというと、自治体の住民基本台帳から個人の住所や生年月日などの情報を開示ないしは提出させているからだ。
とりわけ、自衛隊が自治体に名簿の提供を迫ることについては、個人情報保護上の問題を指摘する専門家の声が相次いでいる。
たとえば、法学者の園田寿・甲南大学法科大学院教授は「自衛官募集のために住民基本台帳の情報を自治体が紙などで提供するのは法的根拠がない。住民基本台帳法で禁止する『個人情報の目的外利用』にあたり、違法だ」「個人情報を扱う規定は同(自衛隊)法にも施行令にもなく、これらを根拠に提供を求めるのは拡大解釈だ」と指摘(朝日新聞2016年3月22日付)。
憲法学者の右崎正博・独協大法科大学院教授も「政令である自衛隊法施行令120条には、自治体に資料の提供義務があるとは明記されていない。本人の同意なしに名簿まで提供できるとするのは自衛隊側の都合のいい拡大解釈だ」と批判したうえで、「自治体の担当者は『国の依頼だから』ではなく、住民のことを最優先に考え、主体的に判断していく必要がある」と語っている(朝日新聞西部地方版2016年1月14日付)。