もっとも、阿比留氏のヘイトオピニオンを見てもわかるように、これらヘイト言説は「正論」、「WiLL」(ワック)、「月刊Hanada」(飛鳥新社)ななどの保守論壇誌では日常茶飯事だ。いや保守論壇誌に限ったことではない。週刊誌でもこうしたヘイト特集は少なくないし、いまも書店にはヘイト本が数多く並びいくつかはベストセラーにすらなっている。
それは、テレビも例外ではない。ワイドショーではここ数年、セウォル号事故、朴槿恵前大統領の汚職、財閥スキャンダル、BTSのTシャツ問題……と韓国バッシングネタは定番ネタとなっている。
そこでは、コメンテーターたちの口から、「まともに付き合えない」「ゴールポストを動かす」「感情的」「極端」といった、韓国政府と韓国国民とを不分明な形で韓国ヘイトスピーチが垂れ流されてきた。セウォル号事故、朴槿恵前大統領の汚職、財閥不祥事といった問題は、当然韓国国内でも批判され韓国国民はその間デモなどで声を上げ事態を動かしてきたが、ワイドショーでは韓国政府だけでなくそうした批判の声をあげる国民のこともまた、嘲笑したり槍玉にあげてきた。
『ひるおび!』(TBS)の八代英輝弁護士、『ゴゴスマ』(CBCテレビ)の竹田恒泰氏、『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)の北村晴男弁護士といった安倍応援団コメンテーターらは、こうした韓国ネタでは安倍政権擁護のとき以上に熱が入ることも少なくない(ちなみに安倍応援団でも田崎史郎はヘイト発言はしない)。安倍政権に批判的でリベラルと目される番組やコメンテーターでも、韓国問題になると嫌韓丸出しになることもある。
今回たまたま『プライムニュースイブニング』がわざわざフリップまで用意しSNSで拡散されたことで注目を浴びたが、こうした韓国人ヘイトを煽るような言説は多くのテレビ番組で定着してしまっている。もちろん日々それを目にする視聴者の間にもだ。限られた読者しか目にしない保守論壇誌や韓国ヘイト本と違って、テレビの影響力ははかりしれない。
日韓関係が冷え込むなか、日本のマスメディアは、テレビでも新聞でも、留保なしで韓国政府批判を展開している。この“韓国が悪い”の大合唱のなかで、それが政府批判にとどまらず、「韓国人」という属性を攻撃することへの倫理的歯止めがなくなっているのだろう。いまのマスコミを支配しているのは“韓国批判なら何を言ってもOK、むしろもっと過激にするべし”という空気であり、それこそがヘイト言説をどんどん増長させている根源だろう。
それは単に、韓国との対立を深める安倍政権に丸乗りしているだけでなく、一種の相乗効果となっている。外交でも内政でも行き詰っている安倍政権にとって、韓国は“仮想敵”として、いま政権浮揚に使える数少ないネタだ。レーダー照射問題は、防衛省の抑制的な声をふりきった安倍首相の鶴の一声で映像公開に踏み切ったことで泥沼化したが、それが国民に“ウケる”という安倍首相の計算があったことは想像に難くない。
その意味で、レーダー照射問題の泥沼化と日韓関係の悪化は、安倍政権とメディアの共犯関係によって引き起こされたともいえる。今回の『プライムニュースイブニング』のヘイト報道が極めて悪質であることは言うまでもないが、これを機にほかの多くのマスコミにも蔓延る韓国人ヘイトもきちんと批判にさらされるべきだろう。
(編集部)
最終更新:2019.01.29 01:34