周知のとおり、古市の第2作目の小説「平成くん、さようなら」(「文學界」2019年9月号)は、本日発表の第160回芥川賞の候補にノミネートされている。13日の『ワイドナショー』でも、「古市のキャラなら芥川賞なんていらないと断らないの?」と受賞願望をいじられ、「ノミネートを受けている人はみんな欲しいということ」などとごまかしていたが、芥川賞をかなり意識しているのは誰の目にも明らかだった。今朝の『とくダネ!』(フジテレビ)でも選考会場である築地・新喜楽から中継するなど、古市が芥川賞を獲ったかのような大はしゃぎ特集をしていたが、古市自身も「僕がノミネートされたことで、賞が注目を浴びたのはいいこと」と上から目線でまんざらでもない様子を見せていた。
実際、古市の「平成くん、さようなら」は今回の目玉候補であるだけでなく、ノミネートのラインナップに「古市シフト」という声もあがるなど、最有力候補との評価も多い。勧進元である文藝春秋の「文學界」も一押しだからこそ、今回古市と落合の対談を組み、かつネット配信までし、プロモーションに力を入れてきた。古市自身もおそらくそれは自覚していて、下手なことを言ってこれ以上騒ぎになって芥川賞を逃したくないと思っているのだろう。
しかし、古市が“終末期医療打ち切れ”発言について逃げ続けて、芥川賞を取ろうなんて考えていたとしたら、それは、まさに“表現者”の風上にも置けない無責任な姿勢と言っていいだろう。
なぜなら、今回の芥川賞候補にもなっている古市の小説「平成くん、さようなら」と、問題の対談は同一線上にあるものだからだ。落合との対談で終末期医療の話題になったのは、「平成くん、さようなら」が安楽死をテーマとしていることからで、古市自身、対談への批判が盛り上がる最中〈死にまつわる議論が盛り上がってほしいというのは『平成くん、さようなら』を書いていたときから思っていたことです〉などとツイートしていた。
「平成くん、さようなら」は安楽死が合法化されている「日本」で、平成に改元された日に生まれ「平成」と名付けられた主人公「平成くん」が、平成が終わることを機に安楽死を望むというストーリー。
主人公の平成くんは、学生時代に若者を題材に書いた論文の書籍化をきっかけにメディアで活躍することになった「文化人」で、「とくダネ!」に出演していたり、性交渉嫌いを公言していたり、小泉進次郎議員や東宝の川村元気、落合陽一らを思わせる人物との親交をさりげなく織り交ぜるなど、現実の古市自身を投影、戯画化させたようなキャラクターだ。
首相動静にもしょっちゅう登場する「アンダーズ東京」のルーフトップバーで恋人と待ち合わせしたり、蜷川実花に撮ってもらった写真を遺影にしようかと相談したり、安楽死が合法化したことで貧困を理由にした死が激減したという甘すぎる見通しを開陳していたり、とツッコミどころはいろいろあるのだが、気になるのは、やはりそのぺラッペラな主題だ。