検察の捜査の実態を目の当たりにすればするほど、大きくなるのが、東京地検特捜部がなぜ、こんな無理筋の事件に着手したか、という疑問だろう。日産の反ゴーンチームが1年ほど前から極秘にゴーン氏の不正を調査し、特捜部に情報提供していたのは周知の事実だが、どうして特捜部は公判維持さえ危ぶまれる虚偽記載だけで逮捕に踏み切ったのか。
その答えとして、ここにきて再び強まっているのが、安倍政権の関与説だ。
そもそも、今回のゴーン逮捕をめぐっては当初から「国策捜査説」が流れていた。逮捕の裏には、日産、三菱自動車のルノーとの統合、海外移転を阻止する日本政府の意思があったのではないか、という説だ。
たしかに、ルノーの筆頭株主であるフランス政府は三社を全面的に統合し、日産や三菱もフランスに移転させる計画をぶちあげていた。ゴーン氏は当初、この経営統合計画に異を唱えていたが、今年2月、ルノーCEO続投と引き換えに、態度を豹変。「すべての選択肢が考えられる」と経営統合を排除しないことを表明した。これに官邸や経済産業省が危機感をもち、検察と日産幹部らの背中を押したのではないかというものだ。
この国策捜査説には当初、具体的な根拠は全くなかったのだが、ここにきて、安倍政権と日産クーデーター、そしてゴーン逮捕をつなぐ接点が次々と浮かび上がっているのだ。
そのひとつが、ゴーン不正追及の動きが逐一、菅義偉官房長官に伝えられていたとの見方だ。いま、さまざまなメディアで、日産内部にゴーンの不正を調査していた極秘調査チームがあったことが報道されているが、中心人物と名指しされてるのが、専務執行役員で弁護士資格も持つマレー系イギリス人のハリ・ナダ氏と同じく専務執行役員で、広報担当を務めていた川口均氏。このコンビが最初に動いて情報を集め、弁護士、検察との間で計画を詰めていったといわれている。
ところが、そのひとりである川口氏が、菅官房長官と非常に親しい関係にあるのだ。
「日産の本社は横浜ですから、地元選出の大物政治家である菅官房長官とは会社ぐるみで関係があるんですが、川口さんは特別です。なんでも、川口さんが横浜商工会議所の副会頭になった頃から付き合いらしいですが、この数年は、頻繁に連絡をとりあって、会食や会合を重ねていた。社内では“川口さんの後ろ盾は菅さん”というのは共通認識になっていましたから。ゴーンの件も、菅さんに事前に相談していなかったとは考えにくい」(日産関係者)