すると、最悪の場合、容疑を否認しているというゴーン氏を勾留中の起訴へ持ち込めないという、検察の面目丸つぶれのオチまでありえる。当然、「本丸」とささやかれている「特別背任」の線もどっぷりとした暗雲に包まれているに違いない。
ましてや今回、捜査当局はマスコミを動かして“ゴーン逮捕劇場”まで大々的に演出したのだからオオゴトだ。とくに、この間の新聞・テレビの報道自体、その大部分が検察のリークであることは疑いないが、いやはや、それに振り回されてもんどりうっている大マスコミの情けなさといったらないだろう。
実際、あらためて振り返ってみると、当初からマスコミ報道は錯綜し続けてきた。
前述のように、最初の朝日の“スクープ”では〈特捜部の発表によると、ゴーン会長とケリー代表取締役の2人は共謀のうえ、2010~14年度の5年度分の有価証券報告書に、実際はゴーン会長の報酬が計約99億9800万円だったにもかかわらず、計約49億8700万円と過少に記載した疑い〉と報じられた。
後追いした他のマスコミも異口同音で、さもゴーン氏が5年間で約100億円もの巨額報酬を懐に入れながら半分しか受け取っていないかのごとく欺いたような報じ方だった。さらに、日産の西川広人社長が会見であげた「目的を偽った投資資金の支出」「私的な目的での会社の経費の不正使用」に関する不動産疑惑等も続々と伝えられるなど、“強欲ゴーンの巨悪”なるイメージがあれよあれよと作られていった。
ところが、周知の通り、その後、肝心の「有価証券報告書虚偽記載疑惑」の雲行きが怪しくなってくると、各社の報道は大混乱。矛盾だらけの支離滅裂なシロモノになっていったのだ。
たとえば、ゴーン氏が子会社等の資金を「私的」に使って高級住宅を購入し、その家賃相当額を有価証券報告書の記載すべきなのにしていなかった=「約50億円は不動産等を報酬とみなして積み上げた説」がまことしやかに出てきたり、実は約50億円のうち約40億円は「株価に連動した報酬を受け取る権利」なる報道が出てきたりと、ようするに、毎日のように“消えた50億円”の内訳がコロコロ変わっていったのだ。
そして挙句の果て、「そもそも50億円は受け取っていなくて退任後の約束だった」なる話まで飛び出してきたわけである。こうなってくると、もはや何が何だかわからないというのが一般の感想だと思うが、実際、記者やデスクもよくわからないまま書いているのではないか。
もっとも、新聞・テレビというマスコミがこうした無茶苦茶な飛ばしや推測の大合戦の様相を呈しているのは、主に、検察が小出しにするリークにまる乗っかりで、ろくすっぽ検証もせず垂れ流しているからだろう。