いずれにしても、安倍首相は名誉毀損裁判で「噂の真相」を廃刊に追い込んだどころか、損害賠償金ゼロで和解に応じ、提訴を取り下げた、というのが真相なのだ。
ところが、安倍サイドはこの和解の直後から、今回と同じように“噂の真相を休刊に追い込んだ”という主旨のコメントをふりまいていた。裁判が和解になった直後、そのことを報じた毎日新聞(2004年2月18日)に、安倍側の主任弁護士が、こんなコメントを出している。
「「おわび」の掲載と雑誌の休刊によって訴訟の目的を達成したと判断した。事実上の勝訴と受け止めている」
このコメントには「噂の真相」編集長の岡留安則も激怒したようだ。やはり毎日新聞のインタビュー(2004年2月24日)で、安倍との裁判での和解に触れ、「相手の弁護士は『休刊で訴訟の目的を達した』などと休刊に追い込んだように言っている。不快だ。この裁判には自信があり、とことん闘えば勝てたと思う。「一部に誤りがある」と謝罪すれば、取り下げるというので和解に応じただけだ。」と語っている。
ちなみにこのコメントを出した安倍の弁護士は、第一次安倍政権で、NHKの経営委員に就任しているが、それはともかく、これとまったく同じようなデマが今回、百田から飛び出したというわけだ。川端が呆れたようにこう話す。
「安倍サイドはたぶん、和解に応じたことをごまかすために当時、そういうことをマスコミに強弁していたんでしょう。でも、百田の話が本当なら、あれから15年経ったいまでも、その嘘をあちこちでしゃべっているということですからね。それにはさすがに驚きました。弁護士が担当した裁判のことでこんな嘘をいいふらしていいのか。それとも、その辣腕弁護士とやらは嘘を言っているうちに本当に自分が休刊に追い込んだ気になってしまったのか。だとしたら、クライアントと体質がそっくりとも言えますが(笑)」
今回のデマは、百田のホラというだけでなく、背後に、安倍首相とその弁護団の姿勢があることは間違いないだろう。
ところで、百田はもうひとつ、くだんの〈「噂の真相」を廃刊に追い込んだ弁護士先生〉から聞いた話として、〈最後に編集長だか副編集長だかが、「このままで終わると思うなよ」と捨て台詞を吐いた〉というエピソードを紹介している。これは事実なのかデマなのか。川端からはこんな答えが返ってきた。
「僕は和解に反対だったから、和解調停にはいなかったんですよ。そのセリフを言ったとしたら編集長の岡留ということになるけど、どうかなあ。そういうことを言うタイプじゃないんだけど。ただ、『このままで終わると思うなよ』については、デマだと言う気はない。なぜなら、僕がその席にいたら、きっと同じようなことを言ったから(笑)。あの裁判のやり口を見ていて、安倍が強い権力を握ったら、絶対に言論の自由と民主主義は危機にさらされる、このまま見過ごすことはできないと思っていましたから」
実際、その後、安倍は権力への階段を駆け上がるにつれて、噂の真相裁判で見せた言論弾圧体質とフェイク体質をむき出しにしていった。露骨なメディアへの圧力、安倍応援団を使った批判封殺とデマ攻撃、森友加計問題での嘘とごまかし。安倍政権下で言論の自由は明らかに危機に直面している。
いまこそ「このまま見過ごすことはできない」という危機感をメディア全体が共有すべきではないのか。
(編集部)
最終更新:2018.10.23 06:52