ネタにされる地域は埼玉だけではない。たとえば、東京都の足立区は「治安の悪い地域」などの代名詞としてしばしばネタにされている。「翔んで埼玉」復刊のきっかけとなった深夜番組『月曜から夜ふかし』(日本テレビ)でも、埼玉県だけでなく足立区や錦糸町といった地域の住民をいじるような地域ネタ特集がしばしば放送される。『夜ふかし』では、港区や世田谷区の住民が他の地域を下に見るような態度もまたネタにはしているが、いずれにしてもステレオタイプや差別意識を助長しかねない危うさがある。
最近でヒドかったのが、10月1日放送回の「全国の注目されないニュースを取り上げてみた件」というコーナーで、「沖縄の子ども 中学生になると 急に学力低下問題」なる企画だ。
これは、沖縄の中学3年の2018年度全国学力テストが全国で最下位だったことをフックにした典型的な“沖縄ディス”の企画。沖縄県知事選の投開票の翌日というタイミングでこんな企画をやること自体、番組のセンスを疑わざるをえないが、そんな沖縄をバカにするようなVTR明け、スタジオではマツコ・デラックス、村上信五(関ジャニ∞)、そしてゲストで出演していた有働由美子アナウンサーまでも、その企画の危うさを指摘することもなく、ただヘラヘラしているだけだった。
言うまでもなく、治安や学力などの地域格差は、歴史的背景や社会構造の結果生まれているものであり、住民ひとりひとりのキャラクターや責任に回収されるものではない。ましてや嘲笑の対象ではない。
こういうことを言うと、ただのネタに何を真顔でイキリ立っているのかと言われるが、ただのネタでは済まずリアルな差別意識に簡単に結びついてしまっている。実際、“沖縄の学力”企画が放送された夜、「だから、沖縄県知事選はあんな結果になったのか」などと沖縄県民を知事選と絡めてバカにするような趣旨のツイートもあった。
また、国際政治学者の三浦瑠麗氏は、2018年2月11日放送『ワイドナショー』(フジテレビ)で、「スリーパーセルという北朝鮮のテロリスト分子が潜んでいる」「いま結構大阪ヤバイ」と差別助長発言を口にして大炎上したが、これも、ネットなどで垂れ流されている大阪に対する地域差別の定番エピソードと絡み合って相乗効果を発揮するような悪質な差別デマだ。4月の大阪地震では、さっそくこの発言に影響を受けたと思しきツイートが散見された。
残念ながら現在の日本社会は醜悪な差別意識をためらいなく表出することを許容する空気が確実にある。場合によっては差別的発言が「炎上を恐れず本当のことを言った」などと一部で喝采を浴びることすらある。
ちょっとした地域差別もネタで済まず、現実の社会生活にも影響を及ぼすことは、今回の南青山の一部の住民の反応を見ても明らかだろう。児童相談所の建設に反対する南青山の住民の姿は誰の目にも醜悪だが、その一方、先に挙げたような地域差別ネタで笑っている多くの人々の心のなかにも、南青山の住民と共通するものが存在していることを無視してはならないと思うのである。
(編集部)
最終更新:2018.10.22 04:40