しかし、懸念されるのは、このタイミングでの強行路線への先祖帰り、異論封殺によって、本来の目的である拉致問題解決が逆に遠ざかってしまいかねないことだ。国民大集会で最後に採択された決議には、こんな文言が盛り込まれていた。
〈日本国内では一部の人物が、経済支援や国交正常化を先行させよとか、日朝合同調査委員会や平壌連絡事務所の設置などを求め、拉致問題の解決を歪曲しようとしている。〉
〈日本は、米国や国際社会と共に、北朝鮮の謀略や国内の様々な妄言には毅然として対抗し、拉致問題が解決するまで対北制裁を緩めず、経済支援も行ってはならない。全拉致被害者の即時一括帰国こそが解決の定義だという姿勢からぶれてはならない。〉
はっきり言うが、これでは、目的が拉致問題解決ではなく、北朝鮮に強行姿勢を示すことにすりかわっているとしか思えない。こんなことを叫んでも何の解決にもならないばかりか、対話路線でようやく手が届きそうなチャンスを自ら手放し、拉致問題の進展をストップさせてしまう危険性さえある。
「全被害者の即時一括帰国」という目標も疑問だ。全被害者とはいったい何人なのか。政府認定の拉致被害者(17人)のうち未帰国の12人だけでなく、警察庁が「拉致の疑いが排除できない行方不明者」として計上する883人も含めた数字であれば、未来永劫、拉致問題は解決しないことになるだろう。北朝鮮がどんな数字を出してきても、日本側が「解決宣言」をするまでは、拉致問題はいつまでも日朝間に横たわったままだ。こうした主張を掲げている間は、北朝鮮が交渉に乗り出してくる可能性はないと思わざるをえない。
しかし、実はこれこそが、安倍首相や安倍応援団の狙いだという見方もある。
「安倍官邸は何人かの被害者が帰ってくるより、むしろ決裂してゼロ回答のほうがいいと考えている。そうしたら、北朝鮮はこんなにひどいと煽って、支持率をアップさせられますからね。逆に下手に妥協すると、右派の支持を失いかねない。ただし、強行路線を維持するためには、被害者家族に支持してもらわなければいけません。そのために家族会を強行路線に誘導しているんでしょう」(拉致問題に詳しいジャーナリスト)
こんなやり方を許していたら、拉致被害者はいつまでたっても帰ってくることなく、安倍首相とその応援団に政治利用され続けるだけに終わるだろう。
(編集部)
最終更新:2018.10.01 12:35