しかも、これは松井知事だけでなく、前任者の橋下徹・前大阪市長にもいえることだ。今回の台風21号でかつて自分が首長を務めた大阪に被害が広がると、橋下は被災した府民・市民の生活そっちのけで、防災軽視で無為無策だった自分たちへの批判封じや責任逃れ、さらには、過去の失策をまるで「英断だった」と言いつくろうような自己正当化ばかりおこなったのだ。
まず、大阪全域で台風が猛威を振るっていた4日、配信したメルマガで、橋下が延々語っていたのは、前述した大阪府咲洲庁舎(旧WTCビル)のことだった。大阪南港ベイエリアの人工島・咲洲に建つ256メートルの超高層ビル・旧WTCビルは府知事時代に強引に購入し、大阪府の第二庁舎としたものだが、今回の台風で長時間の揺れに見舞われ、31台のエレベーターのうち21台が自動停止。すぐ隣の駐車場では、20台以上の車が強風に吹き飛ばされたり、巻き上げられたりして横転・大破し、ビルの足元に残骸が積み上がった。
このことを意識したのだろう、橋下は先回りして批判を封じ込めるように、ビル購入の経緯を自画自賛交じりに語りはじめた。
いわく、自分が2008年に府知事に就任する前から老朽化した府庁舎の建て替えが大きな問題になっていた。だが、府の財政逼迫や、当時府議だった松井一郎らが巨額の新規庁舎建設に反対していたのもあり、膠着状態に陥っていた。そこで思いついたのが、大阪市がバブル期に建設したものの、破綻したWTCビルを格安で買い取り、府庁を移転するアイデア。実現すれば、やはり負の遺産となっていた大阪ベイエリアの活性化にもつながる。役人や府議会には考えつかない「前代未聞、驚天動地のアイデア」だった──。
これが橋下の説明するストーリーだが、事はそう単純ではない。当時の事情を知る大阪財界の関係者は、こう語る。
「大阪市には当時、港湾局が推し進めたWTC、経済戦略局が担当だったATC(アジア太平洋トレードセンター)など、『5K』と呼ばれる大型不良資産があったんです。あんな使い道のない、アクセスも悪いビルを買い取ってくれるとは、市や金融機関からすればラッキーなんですが、一方で『橋下はアホか』とも言われてました。当時から防災上の欠陥も指摘されていましたからね」
橋下は府知事就任半年後の2008年8月、WTCビルの展望台に上り、「ここが関西に光を見せる拠点になる」「大阪再生の光が見えた。(府庁移転は)もう決まりです」と、上機嫌で語った。抵抗する府議会を押し切り、09年10月に購入を決定。この過程で橋下に同調し、移転に賛成した松井ら府議会自民党の一部グループが、後に大阪維新の会を結成することになる。
だが、橋下の府庁移転計画は、11年3月の東日本大震災でボロが出る。WTCビルは震源から約600キロメートルも離れているにもかかわらず、長周期振動で10分間にわたって最大2.7メートルも揺れ、約360カ所が破損。耐震性の欠陥に加え、津波や高潮、液状化、孤島化の恐れが防災の専門家から次々と指摘され、「災害時の拠点としてはまったく使えない」と断言されたのである。そこへ加えて今回、台風にも弱いことが露呈。結局、橋下は何の使い道もないビルを思いつきで強引に買い、将来にわたって維持・改修費を抱え込むという、典型的な「安物買いの銭失い」を主導したことが明らかになったわけだ。
ところが橋下は頑としてこれを失策と認めず、自己正当化にいそしんでいる。先のメルマガでは、WTCビル購入が「今の大阪政治の根っこの根っこ」だったと言い、「あのときにWTCビルの購入をしていなければ、大阪維新の会も、日本維新の会も誕生せず、そして統合型リゾートや大阪万博の話も何もなかっただろう」と言い張った。
さらに、7日に連投したツイッターでは、WTC問題に加え、関空問題で批判されはじめたことを意識してか、「物事に100%の完璧はない。今回の台風被害は甘受すべき範囲内」「一つの事象だけに騒ぎ立てるバカな有権者に付き合うのはもう懲り懲りだよ」と有権者をバカ呼ばわりする逆ギレぶりを見せつけた。