しかし、この空港民営化は、かなりアクロバティックなものだった。民営化前に、関西国際空港株式会社と、B滑走路がある土地の運営をしている関西国際空港用土地造成株式会社が合併し、関西国際空港土地保有株式会社に名称変更した後、さらに伊丹空港を経営していた大阪国際空港ターミナル株式会社という別会社と一緒になって、新関西国際空港株式会社が誕生した。非常に煩雑だが、ばらばらだった会社を無理にひとつにしたのは、ひとえに民営化を進めるためだった。
また、民間に空港をまかせるとはいっても、空港は市民にとっての大切な公共財である。当然、阪神淡路大震災のときのように災害時に役に立つものなので、完全に民間に売却してしまうのはいかがなものか、という声が起こった。だったら、運営する権利という概念を新たにつくり、その権利、つまり運営権(英語でコンセッション)を売ろう、ということになったのである。
つまり、関空はいくつもの会社からできた新関西国際空港株式会社が所有管理し、運営を関西エアポートがやるというキメラ(合成獣)のような構造になっているのだ。
もちろん、これはメリットもあった。今回のような天災のときの復旧は、運営権者である民間会社が負いきれる負担の範疇を超えるため、「大家」である新関西国際空港株式会社≒国が責任をもって費用負担をすることになっている。しかし、寄せ集めゆえ責任の所在が曖昧な部分も多々ある。たとえば、今回、不通になった連絡橋の所有者は、関西エアポートでも国でもなく、別会社だ。連絡橋が破壊され、その結果として、空港の運営が厳しくなった場合は、誰が責任をとるのだろうか。
さらに、最大の問題は、運営を担当することになった民間業者、関西エアポートの体質だ。
関西エアポートは、オリックスとフランスのゼネコンであるヴァンシの関連会社ヴァンシ・エアポートとの合弁会社である。少数株主として、オール関西財界が株主に名を連ねてはいるが、実質はこの2社で80%の株式を持っており、執行役員は、ほぼオリックスとヴァンシ・グループ出身者で占められている。
代表取締役も2人、専務執行役員も3人ずつと、きれいに両者で分け合っている。いわば、2社で共同統治をしている。5日夜に記者会見した関西エアポートの西尾裕専務執行役員も、凸版印刷からオリックスに移り、長年、同社で働いている人間だ。
オリックスは空港運営とは何の関係もない金融やリースが本業の会社。ヴァンシ・エアポートは空港運営を業務とはしているが、完全に後発組で、それまでは小規模な空港しか運営したことがなかった。