いや、実際、そういうことなのだ。あらためて振り返るが、朝日の慰安婦(吉田証言関連)記事の訂正後、安倍首相はその歴史修正主義をフル稼働させた。たとえば菅義偉官房長官は2014年9月5日の記者会見で、慰安婦問題に関する国連のクマラスワミ報告について「報告書の一部が朝日新聞が取り消した(吉田証言に関する)記事の内容に影響を受けていることは間違いない」とわざわざ強調し「朝日新聞は記事を取り消したが、慰安婦問題に関して国際社会で誤解を生じている」とまで発言した。
念のため言っておくが、クマラスワミ報告のうち吉田証言について触れられているのはたかが数行にすぎない。しかも、本題に入る前の「歴史的背景」という項目で先行調査のひとつとして紹介されているだけで、報告書の根幹ではなく、報告書が立脚しているのは、あくまで正式タイトルにある「朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国及び日本への訪問調査」であり、元慰安婦や元兵士らからの聞き取りである。吉田証言が虚偽であっても、クマラスワミ報告書の有効性とは何の関係もないのだ。
だが、安倍政権は吉田証言の虚偽をダシに、クマラスワミ報告を攻撃し、とくに同報告が慰安婦を「性奴隷」と認定したことに猛反発。今回の国連人種差別撤廃委員会でも、日本政府側が「『性奴隷』という表現は不適切である」と繰り返し主張していたが、それも吉田証言と朝日バッシングと地続きにあるのだ。
だいたい、安倍首相自身が朝日の記事取り消し以降、国会でも散々、吉田清治を槍玉にあげて慰安婦問題の矮小化言説をがなりたててきた。
「吉田証言自体が強制連行の大きな根拠になっていたのは事実ではないか、このように思うわけであります」(2014年10月3日、衆院予算員会)
「あるいはまた、吉田清治の証言の問題もそうですよ。こういうことを、ちゃんと裏づけ調査をしていれば防げたものを、防がなかったことで日本の名誉が傷つけられたという、これは大変な問題じゃないですか」(2014年10月31日、衆院地方創生に関する特別委員会)
「(森友学園問題をめぐる朝日報道について「哀れですね。朝日らしい惨めな言い訳。予想通りでした」とFacebookに書き込んだことを問われ)これは私が書きました。(中略)(朝日新聞が報じた)吉田清治の証言に至っては、これは日本のまさに誇りを傷つけたわけであります」(2018年2月13日、衆院予算員会)
こうやって振り返れば自明のように、つまるところ、今回の日本政府側による“慰安婦問題のイメージは吉田証言と朝日新聞報道が「捏造」した「空想の産物」”なるトンデモ発言は、安倍首相が繰り返してきた慰安婦問題の矮小化の結晶なのである。