しかし、実は、こうした事実は驚くには値しない。内調はこれまでも、「安倍首相の私兵」として、安倍首相の権力維持のためにさまざまな動きをしてきた。しかも、それは朝日が今回報じた情報収集というレベルにはとどまらない。政権と敵対する野党や官僚、メディア関係者に対して、スキャンダルやデマを流す、謀略機関としての役割も果たしてきた。
たとえば、2014年、小渕優子衆院議員や松島みどり衆院議員など、当時の安倍政権閣僚に次々と政治資金問題が噴出した直後、民主党(当時)の枝野幸男幹事長、福山哲郎政調会長、大畠章宏前幹事長、近藤洋介衆院議員、さらには維新の党の江田憲司共同代表など、野党幹部の政治資金収支報告書記載漏れが次々と発覚し、政権の“広報紙”読売新聞や産経新聞で大きく報道された。
ところが、この時期、内調が全国の警察組織を動かし、野党議員の金の問題を一斉に調査。官邸に報告をあげていたことがわかっている。
また、その翌年の2015年、沖縄の米軍基地問題で安倍官邸に抵抗している翁長雄志・沖縄県知事をめぐって、保守メディアによる「娘が中国に留学している」「人民解放軍の工作機関が沖縄入りして翁長と会った」といったデマに満ちたバッシング報道が巻き起こったが、これも官邸が内調に命じてスキャンダル探しを行い、流したものと言われている。
ほかにも、2016年に浮上した民進党(当時)の山尾志桜里政調会長のガソリン代巨額計上問題や、民主党代表候補だった蓮舫氏の二重国籍疑惑、SEALDsをはじめとする安保反対デモ、「イスラム国」人質殺害事件での人質のネガティブ情報などにも、内調の関与がささやかれた。
野党や反対勢力だけではない。内調は官僚の監視も行っている。2017年には韓国・釜山総領事だった森本康敬氏が更迭されたが、これは森本氏がプライベートの席で慰安婦像をめぐる安倍政権の対応に不満を述べたことを内調がキャッチ。官邸に報告した結果だったと言われる。
また、同じ2017年に「総理のご意向」文書を“本物”だと証言した文科省前事務次官の前川喜平氏に対して仕掛けられた「出会い系バー通い」スキャンダルも、もとは公安出身の杉田和博官房副長官や内調が調査してつかんだものだったという。
さらに、内調は、安倍官邸御用達ジャーナリスト・山口敬之氏の伊藤詩織さんへの「準強姦」もみ消し疑惑についても関与していた。この問題は「週刊新潮」(新潮社)が最初に報じたものだが、記事が掲載されると知った山口氏がもみ消し相談のために、北村内閣情報官に送ったメールが「週刊新潮」編集部に誤送信されていた。また、事件発覚後、被害者の伊藤さんへのバッシングが巻き起こり、伊藤さんを「民進党の関係者」と無理やりこじつける謀略的なチャート図がネトウヨの間で出回ったが、これらももとは内調が流布したものと言われている。