「正論」7月号
もはや「保守系論壇誌」と呼ぶよりか“安倍応援団のアジト”というほうがお似合いな、産経新聞社発行の月刊誌「正論」。発売中の7月号に、こんなタイトルの対談記事が掲載されている。
「セクハラ? チンパンジーでは常識ですよ 他人の尻馬に乗る『#ME TOO』運動」
念のため言っておくが、対談しているのはチンパンジー2匹ではない。安倍晋三の首相再登板を支援し、第二次安倍政権でNHKに経営委員として送り込まれた“首相のブレーン”のひとり、長谷川三千子・埼玉大学名誉教授と、最近、「睾丸が小さい日本人男性は『日本型リベラル』になりやすい」なる“チン説”で話題になった自称動物行動学研究家・竹内久美子氏が、財務省の福田淳一前事務次官や#MeToo運動で注目されるセクハラ問題を語る、という内容である。
それにしても「チンパンジーでは常識」という煽り方からしてヤバさがプンプン漂ってくるが、中身を読むと、その煽り以上に唖然とするシロモノだった。たとえば、竹内氏がチンパンジーのメスは発情すると集団の複数のオスと何度も交尾すると言うと、長谷川氏はこんな相槌をうつのだ。
「慰安婦問題とかで『一日何十人もの相手をさせられて人権侵害』と言われますが、チンパンジーなら全然OKと。問題はメスが発情しているかいないか」
言葉を失う。なぜ、チンパンジーの生殖行為と慰安婦問題を比較するのか。慰安婦問題は軍隊という暴力を背景した戦争犯罪であって、言うまでもなく子孫を残すための生殖行動ではない。両者を並べること自体が極めて異常だ。
しかし、対する竹内氏は、学問的にも明らかな比較不可能性をスルーし、「生物の二大テーマが生存と繁殖」との講釈を垂れて、こう長谷川氏と意気投合するのだ。
竹内「生物の二大テーマが生存と繁殖。これしかないんです。セクハラも繁殖行動の延長と言え、これはいけない、あれもダメとがんじがらめに制限するのは、私から見るとおかしい」
長谷川「もし人間にも発情期があれば、発情期でないメスにちょっかいを出すとセクハラ。発情期なら繁殖目的に合致して全然OKと」
いったい、なにからツッコめばいいのだろう。
「セクハラも繁殖行動の延長」という議論自体があり得ないが、そもそも当事者が拒んでいるにもかかわらず「繁殖行動」を強要するのは、レイプであり、犯罪である。「全然OK」なわけがない。というか、「女性の胸元が開いてたから誘ってるんだと思った」というような、典型的な犯罪者の思考回路としか言いようがないだろう。