では、その「日本安全保障・危機管理学会」とはいかなる組織なのか。同会HPによれば、〈安全保障および危機管理に関する理論とその応用・実践についての研究を深めつつ、有為な人材を育成し、大学、自治体および企業等へ送り込むことに寄与することを目的〉とされ、学位論文作成支援や修士・博士取得に関わる協力もしているという。また、前述した公安調査庁出身の安部川元伸・日本大学危機管理学部教授も同会に参加し、講演などを行なっている。
もっとも、同会はいわゆる大学アカデミズムの系譜にある団体ではなく、日本学術会議や日本学術協力財団、科学技術振興機構が共同で公開している学会名鑑にも登録されていない。
実は、月刊情報誌「テーミス」が同会について報じたことがあるのだが(2015年5月号)、その際は〈陸上自衛隊OBを中心にした集まりから発展して、警察OBや公安調査庁OBらが加わり、05年に設立された団体〉と紹介されていた。実際に同会の役員名簿(2017年6月1日現在)を見ても、理事には元警視総監や元幹部自衛官などの防衛人脈が多数名前を連ねており、組織出身者の受け皿となっていることがうかがえる。
また、保守系政治家との結びつきも強いらしく、名誉会長の安倍首相だけでなく、名誉顧問には渡辺喜美参院議員、顧問には自民党の中谷元・元防衛相や菅原一秀衆院議員、“ヒゲの隊長”こと佐藤正久外務副大臣、さらにはあの党広報副本部長・和田政宗参院議員の名前もある。
過去には防衛利権がらみの民間シェルター業者との癒着が取り沙汰されたこともあった同会だが、その印象は「学会」というよりはやはり、自衛隊、警察の天下りの受け皿を狙った可能性が高い。
本サイトが5月30日、安倍首相が名誉会長になった経緯について同会事務局に尋ねたところ、担当者はこのように回答した。
「安倍さんがまだ総理になる前、第二次安倍政権の前の民主党政権のときに、渡辺喜美さんの紹介で入ってこられたんですよ。当時、渡辺さんはまだ自民党員だったからですね、そういうことで、同会に入っていろいろ勉強したり情報をもらったりされたらいかがですか、ということで」
実際には、渡辺氏は2009年に麻生内閣が不信任案を出された直後に自民党を離党しているが、いずれにしても安倍首相が2000年代はじめに、こうした「危機管理学」に並々ならぬ関心を寄せ、自衛隊や警察OBとともに、それを「学問」として確立するための動きを見せていたことは間違いないだろう。