裁判は控訴審まで続いたが、一審も控訴審も会社の損害賠償請求を認めなかった。逆に、Aさんのほうから残業代請求をして、付加金(賃金未払いに対する一種の罰金のようなもの)も100パーセント認められたので、Aさんの大勝利で終わったと言っていい。
退職は、労働者の一方的な意思表示により効力が発生するので、会社の承認は必要ない。
民法では期間の定めのない雇用契約については、解約の申し入れ後、2週間(但し、月給制の場合は、当該賃金計算期間の前半に申し入れが必要)で終了することとなっているので、会社の同意がなければ退職できないというものではないのだ。
会社によっては、就業規則で、「労働者は3か月前に退職を申し出なければならない」などと定められている場合もあるが、こういった規則でさえ、裁判では、不当に労働者を拘束するものとして無効とされる場合もある。
また、退職しようする人への経済的な足止め策を講じることも禁じられている。
このように、労働者の「退職する自由」は実は強く保障されているのである。
その昔、日本では「年季奉公」という制度があり、10年、20年といった長い年月、辞めることができずに過酷な環境でも働き続けなければならなかった。日本以外でも、強制労働の例は枚挙に遑がない。こういった強制労働から労働者を守るために、「退職の自由」が保障されているのである。
辞めたいのに辞めさせてもらえないというアナタにもう一度言う。辞めたければ辞めていいのだ。
【関連条文】
強制労働の禁止 労働基準法5条
賠償予定の禁止 労働基準法16条
期間の定めのない雇用の解約の申し入れ 民法627条第1項、第2項
奴隷的拘束・苦役からの自由 憲法18条
(前田牧/はかた法律事務所 https://www.hakatalawoffice.jp)
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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp
長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。
最終更新:2018.07.03 11:07