こういった条項は、労働者の退職を経済的に足止めするもので、労働基準法5条違反となり法律的には無効である。それ以前に、そもそも病気でも休暇を取れないという意味であれば(そういう風にしか読めないが)公序良俗違反で無効である。つまり、守らなくてもいい条項ということだ。
しかし、そういった知識のないAさんは「退職できない」「休むこともできない」と悩んで弁護士のもとを訪れた。
その後、Aさんは弁護士のアドバイスにより休職、退職をしたのだが、なんと会社は、さきの退職合意書に違反しているといって約355万円もの損害賠償請求をしてきた。
会社でAさんはホームページ制作などを担当していたのだが、会社は、Aさんが担当業務を完成させないまま退職したので、それらを外注しなければいけなくなったと言って、その外注費を請求してきたのだ。
しかし、もともと労働者と会社との労働契約には、「完成させるまで働かなくてはならない義務」はない。ここが業務委託や下請けと違うところだ。労働者は、1日1日指示通りに業務をおこなえばよいのであって、完成途中で退職しても構わないのである。どうもこの会社は、労働契約と業務委託の区別がついていなかったようだ。そういえばAさんに対する残業代も支払われていなかったが、そのあたりも、労働契約と業務委託が区別できてないことの表れだったのかもしれない。
会社は裁判を起こし、Aさんに損害賠償を請求してきた。Aさんも私も、ここで私たちが負けてしまっては、退職しようとする人に会社が損害賠償できるという実績をつくってしまうことになるので、絶対に勝たなければならないという気概で頑張った。
途中、裁判所が「多少払って和解しては?」と言ってきたこともあったが、「そんなことをして、退職者に対する損害賠償請求が通ったという歴史をつくるわけにはいきません!」と拒否し続けた。