ほかにも『小さな悪魔の背中の窪み』(新潮社)では、病気に対する抵抗力の差異などを根拠にして〈血液型と性格にはやっぱり関係がある!〉と、無数の専門家が根拠なしと否定してきた俗説を正当化し、「と学会」の山本弘氏からも晴れて「トンデモ本」のお墨付きをもらった。
さらに、疑似科学とかそういうレベルを超えて、ただただ酷い記述も多い。『BC!な話 あなたの知らない精子競争』(新潮社)では、娼婦になることを〈大変に優れた生物学的選択だろう。お金が儲かるのはもちろんだが、それ以上に、素晴らしい生存力を持った宝のような子が手に入る〉〈一部の女が売春にあまり抵抗を感じないとしたら、それは売春が人間の歴史の中で重大な意味を担ってきたから、最強の精子を捕まえる絶好の機会であり続けたからではあるまいか〉と記す。
そして、男性による女性のレイプについてこんな見解を述べるのだ。
〈どう考えたところで、女は被害者以外の何物でもないように思われる。しかしその生物学的意味を考えてみるとき、(中略)。レイプに関してだけは男に完敗、ただやられっ放しとはとても考えられないのである。〉
〈レイプのときの受胎率は通常よりも随分と高いのだ。(中略)これはもう女は、もし不幸にもレイプされてしまったなら、そこで一気に形勢を逆転し、むしろその機会を利用しようとする場合さえあるのではないか、とでも思わざるを得ないのである。〉
〈昔から言うように、「嫌よ、嫌よも好きのうち」である。女は抵抗しつつもその実、男に本当にその意志と実行力があるのかを試すことがままあるのである。そのエスカレートした形がレイプというわけなのだ。レイプで女が抵抗するのは、実は男を試しているということなのである。なるほど、そういうことだったのか……。〉(『BC!な話』)
言葉もない。また同性愛についても「兵役逃れ仮説」なるものを独自に思いついたとして、こんなトンデモを書きなぐっている。
〈同性愛は特に軍隊内では好ましからざる行為である。何しろ兵士さんたちの士気は弱まり、集団の秩序が乱れる。軍隊においては男の攻撃性をいかに束ね、敵へ転ずるかが最重要課題であるから、同性愛者は厄介者とみなされる(中略)。けれど、その男が同じ民族の人間であれば、まさか処刑まではされないだろう。彼は軍隊には不向きな人間だが、愛国心については十分である。そこで、たとえば傷病兵と同じような扱いを受け、最終的には故郷へ送還される。故郷では多少非国民扱いを受けるかもしれないが、戦場で死ぬという大きなリスクから彼はめでたく解放されたのである。〉(『男と女の進化論』)
〈同性愛者は戦争と兵役という、人間に特有の状況の中で有利に自分の遺伝子のコピーを残してきたのではないか。だから「兵役逃れ仮説」なのである。人々が彼らを“差別”し、白い眼で見たりする性質を持っているのは、彼らが兵役逃れという“国賊的”な方法で生き延び、子孫を残そうとしているからかもしれない。そのカラクリを潜在的に知っているからではないだろうか。〉(『BC!な話』)
ひっきょう、言っていることはLGBT差別の正当化でしかない。しかもタチが悪いのは、そのヘイトまがいの主張が論理的に穴だらけであると専門家でなくてもわかることだ。「動物行動学的に見ると〜」「進化論的には〜」と前置けば、“妄想書きなぐりノート”でも許されると思っているのか。科学を、いや人間を冒涜している。
というか、その差別性を考えると、生物学の皮を被ったヘイトクライムだったナチスの優生計画とほとんど変わりはないと言ってもいい。