たとえば、菅義偉官房長官は、南北首脳会談合意について、むしろ非難に近いようなこんなコメントを発した。
「北朝鮮問題の対応にあたっては、北朝鮮との過去の対話が非核化に繋がってきていない。その教訓を十分踏まえて対応すべきものであると思ってますし、対話のための対話であっては意味がない」
「我が国としては引き続き、日米、日米韓3カ国で協力して、関係国と連携をしながら、北朝鮮に政策を変えさせて、核ミサイル計画を放棄させるために、あらゆる方法で圧力を最大限まで高めていく」
「今日まで示してきた方針はいささかも変わりはないということです」
菅官房長官だけではない。河野太郎外相も6日の会見で「経済制裁で困っているので、(金委員長は)必死にほほ笑み外交をやっているのだろう」と挑発。小野寺五典防衛相は7日に「忘れてならないのは、北朝鮮は過去何度も同じように核の放棄を半ば約束し実際には核開発をずっと続けていたこと」と記者団に語った。
そして、安倍首相も昨日の参院予算委で対話路線を完全否定し、「圧力を最大限まで高める」と言い放った。
「対話のための対話では意味がないわけでありますし、対話に応じたからといって、たとえば制裁を緩める対価を与える、対話に対して対価を与えるということがあってはならない」
「核・ミサイル計画を放棄させるため、安保理決議の完全な(制裁)履行など、あらゆる方法で、圧力を最大現まで高めていく考えであります」
はっきりいうが、こんな態度を示したのは、世界中で日本の政府くらいである。南北首脳会談合意のあと、トランプ大統領はすぐに、南北首脳会談について「世界にとって素晴らしいことだ」と言明し、対話に意欲を示したことを「北朝鮮は真剣だと思う」と評価した。ロシアもザハロワ外務省情報局長が7日に「前向きな進展を歓迎する」と表明。EUも、モゲリーニ外交安全保障上級代表が6日に「勇気付けられる進展」と述べて歓迎を示している。
中国も、王毅外相が8日の会見で「問題解決への重要な一歩を踏み出した」と支持を表明し、「なるべく早く有益な(米朝)2国間、多国間対話を再開すべきだ。中国はそのために努力を続ける」と対話に向けての協力を惜しまない姿勢を打ち出した。
ところが、日本政府と安倍首相だけは交渉の進展を期待するようなコメントは一言も出さず「北朝鮮を信用するな」「対話に対して対価を与えるな」「まだまだ圧力を高めるぞ」と息巻き続けたのだ。
断っておくが、金正恩委員長は5日の韓国特使団との会談ですでに「対話が続く間は追加の核実験や弾道ミサイル試射を行わない」ことで合意、米朝関係の正常化と非核化協議について「米国と虚心坦懐に対話する用意がある」と表明していたのだ。
それでも、こんな態度をとるということは、ようするに、安倍政権がこれまで、北朝鮮問題の解決や非核化の実現を目指していたわけではないことの証明だろう。北朝鮮危機をあおることで政権浮揚をはかり、改憲を推し進めてきた安倍政権にとって、朝鮮半島情勢が安定し非核化が実現することは、むしろあってはならない事態なのだ。だから、いまも平和的解決の動きがあることを認めようとせず、緊張状態を維持するために、「圧力が必要」などと言い張っていたということだろう。