まずもって、当たり前だが、私たちが現在口にしているイチゴは幾多もの交配・選抜の末にできあがったものである。たとえばレッドパールにしても、元になった品種の世代をたどっていけばアメリカ産の「ダナー」など“外来種”に行き着く(もっともイチゴに限った話ではなく、他の果物や野菜の多くがそうだ)。たとえば日本で“国産イチゴ”を食べて「おいしい!」と言ったら、アメリカ人やオランダ人が飛んできて、「パクリやがってこの野郎!」「泥棒国家!」などと烈火のごとく怒りだすだろうか。まったく、馬鹿げた話である。
と、そう言っても納得しないネトウヨたちに向け、もうひとつ付け加えておこう。植物の品種については、創作者に育成者権という知的財産権が生じ、日本の種苗法では品種登録の日から25年間は「業として利用する権利を専有する」等が定められている。一方、品種改良は原則として育成者権の効力が及ばない。ようは、登録されていようがいまいが、基本的にある品種とある品種を交配して新たな品種をつくる行為は法的にも認められており、基本的に育成権利者の同意も必要ないのだ。「無断で品種改良したものだろ!」とクレームをつけるのは見当違いも甚だしい。
ちなみに、たとえば雪香の親であるレッドパールと章姫の育成者権はいずれも期間が切れている。つまり、もしも現在、どこかの誰かが自由にそれらの種を栽培しても種苗法的にはなんら問題はない。
そして、これも当たり前の話だが、品種改良というのはA種とB種をちゃっちゃとかけ合わせたらお手軽に両方のイイトコどりな新種ができる、というものでは決してない。ネトウヨ雑誌「月刊Hanada」(飛鳥新社)に韓国イチゴ問題について昨年寄稿していた「農業ビジネス」編集長の浅川芳裕氏ですら、今回の騒動に際しツイッターでこう指摘している。〈韓国でいちばんシェアの高いイチゴ品種ソルヒャン(章姫×レッドパール)なんかは大果率(大玉がたくさんとれる=高く売れる)と収量性(たくさん収穫できる=多く売れる)という両立がきわめて困難な育種課題をクリアしたきわめてすぐれた品種。韓国のイチゴ技術を甘くみないほうがいい〉。単に「パクリ」で「おしいいイチゴ」が生えてくると思っているらしいネトウヨは、韓国どころか、日本も含む農家全体をバカにしていると言う他ないだろう。
しかし、ネトウヨ連中の無知蒙昧はいつものことだとしても、極めて恥ずかしいのは、日本政府までもがそうした「韓国産イチゴは日本のパクリ」なるストーリーを垂れ流してきたことだ。
冒頭に触れた齋藤農水相の「女子カーリングの選手には日本のおいしいイチゴを食べていただきたい」発言だけではない。農水省は昨年、日本のイチゴ品種が韓国へ流出したことで「5年間で最大220億円の損失」という試算を出したとマスコミ各社が報じた。いま、マスコミでもネットでも、この「220億円の損失」という言葉が一人歩きしている。
ところが、本サイトが改めて確認してみると、実際にはこの数字、かなり問題のあるシロモノだったのである。