──そういった点をふまえると、控訴審の判決は理不尽な結果になる可能性が高いのでしょうか。
島田 私たち住民側は、論戦では関電を崖っぷちに追い詰めました。控訴審では重要なことが明らかになりました。それが安全性の根幹に関わる地盤、そして基準地振動の過小評価の問題です。大飯原発の場合、耐震設計の基準とする地震動“基準地震動”は過去に起きた地震の平均値に設定されています。これはつまり、それ以上の大地震を想定していないということですが、しかし、関電は、大飯原発の地域性を考えればそれで十分、つまり施設下には硬くて均一な地層が広がっているからそれを超える地震はこないと主張してきました。断層の傾きなどの不確かな条件も厳しい条件設定をした、と。それが関電の主張の核心でした。私たち住民側も、関電の主張の信憑性を疑ってはいたものの、関電からは簡単なグラフしか出してこなかったこともあり、データを見ても問題点がはっきりしない。それが、島崎氏の関電のデータの不充分さを指摘した証言をきっかけに、複数の専門家に関電のデータを精査してもらった結果、関電の主張がデタラメだったことが次々わかってきたのです。
──具体的には、どういう部分がデタラメだったのでしょうか。
島田 まず、関電が調査したのはほんの表層のみで、3kmを超える震源断層までの地下構造は詳細にはわからないこと。また最新技術を使えば、関電が行った地盤調査のさらに数倍の深さの調査が可能でより正確なデータが取れるのに、それも行っていなかったのです。さらに地盤調査の評価の結果もごまかしています。関電は地層の重なり具合の調査について図を添えて「地層の歪みは認められていない」と規制委員会に報告しましたが、その図を専門家に見てもらったところ、その歪みが一目瞭然だったのです。つまり「想定外」の大地震は起こり得るということです。
また、関電が基準地震動を計算する際に使った計算方法では、大幅な過小評価になることが判明し、さらに規制委員会の審査についても、政府の地震本部の評価方法や規制委員会が定めた審査ガイドに違反していたことも、島崎氏は指摘しました。
──ようするにろくな調査もせず、その結果もごまかしだった、と。地盤や想定の地震規模というのは安全性の根幹のところなのに、ひどい話ですね。
島田 まだあります。関電は施設の地盤は均質で硬さを示すP波速度は秒速4.6kmの硬い地盤だと主張しましたが、京都大学の助教授であった赤松純平氏が関電の計測データを確認したところ、広い範囲でそれを下回っており、地盤が不均質だとわかったのです。審査ガイドでは均質な地盤以外は三次元探査が必要となっていますが、それも行われていません。さらに、基準地震動と原発施設に影響を与える短周期の地震動についても、不可解なデータ操作がなされています。短周期の地震動は、地表近くの地盤による増幅の影響を受けやすいのですが、関電は自らの調査解析の結果、原発直下に近い地盤に地震動を増幅しやすい低速度層(比較的ゆるい地盤)が確認されたのに、それを無視して計算していたのです。その他、不都合な一次データの不記載などもありました。
このように、関電の地盤調査は問題だらけです。私たちは、様々な精査をし、他の専門家からの裏づけもとり、そして裁判において3人の専門家の証人尋問、証拠調べを求めましたが、裁判所からは却下されました。先ほど述べたように、新たな意見書に基づく弁論再開もなされていません。