室井 今の右傾化と安倍一強という社会全体の流れは、はっきり言わせてもらうと民主党政権が政権を取って期待したのに、期待はずれだったという反動もあると思うんです。そのへんのことも、鳩山さんにはぜひお聞きしたい、と。
鳩山 確かにひとつは民主党政権に期待したけど「ダメだったじゃないか」いう部分は、自戒を込めてあると思います。政治と金の問題もあり、メディアからも批判されました。「せっかくリベラル政権ができたと思ったら、自民党政権より悪かったじゃないか」とね。そのためか私のあとの菅(直人)内閣と野田(佳彦)内閣はかなり右寄りになっていきました。そして右傾化のもうひとつの理由は、日本自体が自信を失ってきているからだと思います。本来なら経済一辺倒で世界第2位にまでになった経済大国日本が、20数年で経済も落ち目になって伸びていない。他の国、特に中国の急成長に比べたら、日本は20年間ほとんど伸びてない。そんな状況下で、隣人に対する妬みのようなものが募ってきて、それが中国脅威論に結びつく。相手を認める余裕がなくなってきてしまっていると思う。
室井 一般の国民がそんな考えを持ち、大勢になってしまったら、もう取り返しがつかないと思うんです。だから「日本すごい」と言いたがる人が多ければ多いほど、逆に「国際競争で負けているんだな」とわたしは理解するようにしています。今、メディアでも「日本すごい!」という番組や本、記事が氾濫しているじゃないですか。同時に韓国や中国の揚げ足を取って、嘲笑するような報道ばかりしている。狭い中で自画自賛するのってすごく歪んでいるし、みっともないと思います。
鳩山 わたしの著書『脱 大日本主義』(平凡社新書)にも書きましたが、大きく強く威張るような国を目指すのではなく、ミドルサイズでいいから自分の体に合った体力で人々の幸福を考える。日本はどこの国よりも少子高齢化時代を迎えているのだから、そうした対策を頑張れば、世界に向けてのモデルになれる。
室井 でも、少子高齢化はどうしようもできないし、国際競争に負けてるし。だいたい安倍さん、教育にもお金をかけないじゃないですか。
鳩山 この国は、教育がどこかでおかしくなってしまった。私のときもそうだったかもしれないけど、インターネットが予測もつかないほど急速に普及する予測する中、「自分自身で考える」という教育をしてこなかった。自分で考える経験がないから、外から入ってくる様々な情報を鵜呑みにして受け入れてしまう。自分の頭で「これはおかしいじゃないか」と考えることがなかなかできない状況になっていると思います。大学教育もだいぶ遅れてしまったと思いますが、まずは初等中等教育を根本的にやり直さないとダメだと思っています。
室井 安倍さんが、国立大改革として、文系学部の廃止を通達したことがありましたが、それって、“直接商売に結びつかないからお金を削る”ってことだと思うんです。しかも哲学とか宗教学とか“自分で考える”学問は権力者にとって邪魔だってことでしょ。本当に意味がわからない。
鳩山 そうですよね。大学の仲間が「大学時代というのは、将来、世の中に出てからでは学べないことや無駄だと思うことを学ぶことに意味があるんだ」と言っていたことがあります。それは一面一理だと思う。必要なことだけを学ぶだけではなく、余裕みたいなものを持つことのほうが大事なんです。