それにしても、いったいなぜ、こんな映画監督をよりにもよって、世界中から注目される祭典の演出責任者に選んだのか。日本に国際的な評価を獲得しているクリエイターがいないわけではない。ぱっと思いつくだけでも、宮崎駿、塚本晋也、坂本龍一、北野武……少なくとも、山崎貴のように「それ誰?」ってことにはならない映画監督や劇作家はけっこういるはずだ。
そこで思い出されるのが、安倍首相が山崎監督の映画を大のお気に入りだという事実だ。安倍首相は著書『美しい国へ』(文春新書)のなかで、『ALWAYS 三丁目の夕日』について「いまの時代に忘れられがちな家族の情愛や、人と人とのあたたかいつながりが、世代を超え、時代を超えて見るものに訴えかけてきた」「昭和30年代の日本では、多くの国民が貧しかったが、努力すれば豊かになれることを知っていた。だから希望がもてた」などと絶賛していた。
『永遠の0』についても、原作を愛読書としてたびたび大絶賛しているだけでなく、映画館にも足を運び「感動しました」と感極まってみせた。最近も山崎監督の新作である『DESTINY鎌倉物語』を観に行ったことがニュースになっていた。
たしかに、山崎監督のペラペラな作風は「映画好き」を公言するわりに映画的教養がまったく感じられない安倍首相が好みそうではある。
しかも、取り上げるテーマも、安倍首相大好きなものばかりだ。先の戦争と特攻を美化する『永遠のゼロ』は言うに及ばず、『ALWAYS 三丁目の夕日』が美化した昭和33年も、安倍の祖父である岸信介が総理だった時代である。安倍首相にとって、山崎貴は、偉大なおじいちゃんとおじいちゃんを愛する自分を全面肯定してくれる監督なのだ。
だからといって、安倍首相が直接、「山崎監督がいい」と圧力をかけたかどうかはわからないが、しかし、いまの東京五輪組織委員会やその周辺にいる官僚たちの様子を見る限り、“世界に通用するかいなか”よりも“安倍首相の趣味”を忖度して、人選をした可能性は十分あるだろう。
いずれにしても、この人選やリオ五輪閉会式での日の丸を多用した演出、“安倍マリオ”を見ていると、東京五輪の開会式ではもっとグロテスクな愛国ポルノショーを世界にさらすことになるのではないか。今から恐ろしくてしかたない。
(編集部)
最終更新:2018.02.11 10:05