しかし、改めて悲しくなるのは「世界のキタノ」がそんな薄ら寒い接待ショーの中心にいたことだ。
しかも、たけしはこの収録ですっかり安倍首相にひれ伏してしまったらしい。番組の最後、劇団ひとりから「国民栄誉賞の基準ってなんですか? それこそ、われわれとしてはたけしさんとかに国民栄誉賞をとっていただきたいと思ってるんですよ!」と訊かれた安倍首相が「(基準は)前人未到ですね、前人未到の領域に(たけしさんは)やや入ってます」とコメント。「やや」などと上から目線で批評されても、たけしはまんざらでもなさそうな表情で微笑むばかりだった。
また、たけしの場合、大物相手に共演中はおとなしくしておいて、あとになって毒づくというパターンもあるが、それでもなかった。数日前のスポーツ紙で、たけしが収録後、安倍首相についての感想を聞かれ、こうコメントしていたことが報じられたのだ。
「堅苦しいことを言わずに、冗談言って帰っていったのは最高だったね」「やっぱり頭のいい方」「番組全体で考えると今日の話は最高で、笑い話をたくさんしてもらったのはよかった」
この感想、もはや、フツーのオッサンじゃないか。まったく「世界のキタノ」が聞いてあきれるが、しかし、考えてもみると、たけしの強いものになびく姿勢は、いまに始まったことではない。
全盛期には常に「危なっかしい」雰囲気をまといながら、ありとあらゆる“権威”をバカにしていたたけしだが、実は、有名な1986年のフライデー襲撃事件からすこし後、テレビに復帰した際、右翼団体から街宣活動を起こされると、「芸能界のドン」ことバーニングの周防郁雄社長や周防社長と昵懇のライジングプロ・平哲夫社長に泣きついて仲裁に入ってもらい、手打ちをしてから一変したと言われている。
右翼を過剰に恐れるようになり、テレビや執筆活動でも政治風刺こそするが、それまでのような固有名詞を連呼しながら踏み込むような発言は、めっきり鳴りを潜めてしまった。
そう振り返ってみると、ビートたけしという人間はむしろ、権力側からみればいたって与し易い相手なのかもしれない。安倍首相は、生粋の“無知性ヨイショ芸人”である松本人志の『ワイドナショー!』(フジテレビ)をはじめ、出演するメディアを選別することで知られる。ようするに、今回の番組出演も、そうしたたけしの性質をよく見定めて、“安牌”と考えたからではないのか。
高齢によるキレのなさも指摘されるたけしだが、いずれにしても、安倍側から、権力を批判するだけの知性がもはや失われているのを見透かされていた。そういうことだろう。繰り返すが、番組のなかで安倍首相に一切の政治風刺を利かせられないどころか、笑いとしてもまったく揶揄できなかったのは、その証左だ。安倍政権のPRに利用されるだけ利用される。逆に言えばそれだけバカにされているのである。ビートたけしは恥ずかしくないのか。
(編集部)
最終更新:2018.01.04 10:00