もっとも、リストラだって簡単にできるものではない。
リストラとは、一般的に会社の経営上の理由による解雇を意味するが、そのような解雇を我々は「整理解雇」と呼んでいる。
整理解雇は、従業員には落ち度がないのに、経営状態という会社の都合で解雇するものなので、より厳しく判断されることになっており、具体的には、1会社の経営を続けるためには解雇もやむを得ないか(人員削減の必要性)、2解雇を避けるために会社として経費の削減などの手を尽くしたか(解雇回避努力)、3解雇をする人の人選には納得できる理由があるか(人選の合理性)、4整理解雇をする前に労働者や労働組合に十分な説明などをしたか(手続の妥当性)、これらの4つの条件を満たしている必要がある。
女性労働者は、理不尽な解雇に納得できず、労働審判を申し立てた。労働審判の第1回期日には、女性労働者、女性労働者の弁護士である我々、会社関係者として社長と人事部長、そして、会社の弁護士が出席し、ひとつの机を取り囲みながら労働審判が始まった。
当然、労働審判の場では、会社による解雇が認められるか否かが争いとなり、4つの条件が満たされるかが問題となった。労働審判開始5分、労働審判員から最初の質問がなされた。
「会社の業績は悪いんですか?」
この質問が、会社を一代で立ち上げた社長のプライドに火をつけた。社長はやおら立ち上がり、「いいえ!」と大きな声で答え、そこからは社長の独壇場。
自分の会社の製品がどれだけ優れているか、自分の会社がどれだけ業績をあげているか、語る語る。社長の横に座っていた弁護士が必死に社長を止めようとするものの、社長は弁護士など意に介さず、講演会さながらに自分の会社の素晴らしさを身振り手振りまじえて語り続ける。
「業績いいのにリストラするんかい」……社長以外のその場にいた全員が心の中で総ツッコミ。そもそもの前提が根底から崩れているが、社長それに気づく気配なし。