欅坂46は同月5日、お台場で行われたTOKYO IDOL FESTIVAL 2017にも出演。ここにも平手は出演したが、やはり立っているのがやっとという状態。ボサボサの髪と伸びた前髪で目を隠し終始うつむき加減で、センターを務める人間とは思えぬほど存在感を消し去っていた。この日のステージにはテレビ中継も入っていたため、神戸の公演よりも多くの人に平手の状況が伝わることになり、「てち大丈夫か?」との声が溢れた。その後、16日に日本ガイシホールにて行われた全国ツアー名古屋公演でも欠席を余儀なくされている。
しかし、このようにステージに立てなくなってしまったり、立てていたとしても十分なパフォーマンスができなくなってしまうような状況は、ただ単に身体的な疲労により引き起こされるものではないらしい。
「STREET JACK」(KKベストセラーズ)2017年12月号に掲載された平手のインタビューのなかで取材に同席していたマネージャーは、かつて彼女が言っていた「私は、エネルギーの充電に時間がかかると思うんです。『サイマジョ』を歌ってエネルギーを出したら、次の曲を歌うのに、また充電させて放出する。このエネルギーが溜まりきらないと放出できなくなる」という発言を紹介。精神的な問題がパフォーマンスに大きな影響をおよぼしていると証言した。
実際、平手自身も前掲「ROCKIN’ON JAPAN」のインタビューのなかで、欅坂の楽曲やライブについてこのように発言している。
「“不協和音”は気持ちが入ったり、その世界に行かないとできないです。だから、できる時とできない時がだいたいわかるので、(ライヴで)『今日はできないな』と思ったらできないし、やれるとしても自信はないです」
「欅坂46の曲って、それぞれストーリーがあって全部繋がってるって思うんですけど、セットリストに、そのストーリーのつながりが見えないと、切り替えができないんです」
これは、「提供された楽曲をただ単に歌うだけ」といった、操り人形としてのアイドル像から脱し、ひとりの表現者としての自覚が彼女のなかで芽生えつつあることを示している。
しかし、この思いと彼女の現状は大きな矛盾をはらんでいる。
言うまでもなく、欅坂46のすべての楽曲の歌詞は秋元康氏のペンによるものであり、そのほかのクリエイティブの面においても、恋愛禁止などプライベートな面でも、周囲の大人たちのコントロール下に置かれている。
そのシステムの範疇にいる限りにおいては、彼女の自立にも限界がある。その相克といかに対峙していくのか。
さらに言えば、平手自身がインタビューのなかで挙げる『サイレントマジョリティー』や『不協和音』といった欅坂46の代表的な楽曲は、大人がつくったシステムや同調圧力へのプロテストを歌ったものだ。それを深く表現しようとすればするほど、自らの抱える矛盾や相克にも自覚的にもならざるを得ないだろう。
ライブ途中にコンディションを崩してしまうほどの精神的な苦しみは、そういった矛盾を乗り越えようとしているがゆえに起きているものかもしれない。事実、前掲「ROCKIN’ON JAPAN」のインタビューのなかで、最近はコンサートの演出などに関して平手からアイデアを出すこともあると語られており、自らを蝕む矛盾を壊そうと試みているようだ。
AKB48ブレイク以降の隆盛をほこってきたグループアイドルのフォーマットも、そろそろ更新されてほしいものである。
(新田樹)
最終更新:2017.11.21 08:49