「正直「お招きしていいんだろうか」と言う方もいらっしゃるし、私もそう思っていました。でも五輪が来ることが決まっちゃったんだったら、もう国内で争っている場合ではありませんし、むしろ足掛かりにして行かねばもったいない。
だから、いっそ国民全員が組織委員会。そう考えるのが、和を重んじる日本らしいし、今回はなおさら、と私は思っています。取り急ぎは、国内全メディア、全企業が、今の日本のために仲良く取り組んでくださることを切に祈っています」
繰り返すが、今回の東京オリンピックに関しては、招致の段階から現在にいたるまで問題が次から次へと起こっている。
招致裏金問題、ロゴ盗作問題、新国立競技場見直し、招致時は7000億円だったのにいつのまにか3兆円にも膨れあがった費用、選手村をつくるための木材が無償でかき集められている問題、通訳も同様に無償ボランティアがかき集められている問題、新国立競技場で管理業務に従事していた男性が過重労働の末に自殺、2019年度から始まる残業時間の上限規制で運輸と建設に関する職種は猶予期間が設けられる、「オリンピックのため」というスローガンで共謀罪が強行採決される……。
列挙しているだけで気が滅入ってくるが、このような状況にあるのにも関わらず「国民全員が組織委員会」と言った椎名林檎の言葉は、図らずも彼女たちのような組織委員会およびその周辺の人々の本音をさらけ出してしまったともいえる。つまり、戦時中の日本のスローガン「一億総火の玉」と同じ発想だ。「オリンピックのために」というお題目のもと、国民には徹底した自己犠牲と滅私奉公を強い、その対価は「思い出」や「レガシー」のみということだ。
思想家の内田樹は10月18日にこのようにツイート。「オリンピック」という錦の御旗があれば「なんでもあり」になっている現状を皮肉っている。
〈日本では「五輪招致のため」という大義名分があれば「何をしても許される」というのが司法を含めての国内ルールですから。局所的には日本は法治国家じゃないんです〉
とはいえ、こういった意見を発信すれば、政権を盲信的に応援する人々を中心に「決まったんだから文句を言うな」「非国民」といった罵声を浴びせかけられる状況は続いている。
ただそんななか、あまりにも異様な東京オリンピックをめぐる状況に、勇気ある異議の声もだんだんと出てくるようになっている。しかも、それは、オリンピックのメダリストからも起こり始めた。その発言の主が、元マラソン選手でバルセロナ、アトランタ五輪のメダリストである有森裕子だ。
有森は、6月17日放送『久米宏 ラジオなんですけど』(TBSラジオ)にゲスト出演した際、オリンピックをめぐる政権や組織委員会の強権的な姿勢に対し、「“オリンピックだからいいだろう”“だからいいだろう”“だからこう決めるんだよ”とあまりに横柄で。なぜこうまで偉そうになっちゃうんだろう。社会とずれる感覚を打ち立てて物事を進めている。横柄だし、雑だし傲慢」と痛烈に批判した。