その後、記事は岸信介が戦争を引き起こした政権の重要メンバーであったこと、戦後戦犯として逮捕されたことなど一族のヒストリーを紐解きながら、安倍晋三の右派政治家としての経歴を紹介。ネットを駆使したメディア戦略や報道に対する圧力の問題にも触れながら、森友・加計学園問題で支持率を急落させたが北朝鮮のミサイル問題で復調、これを奇貨として解散総選挙に打って出ると報じ、「勝てば修正主義のアジェンダ(行動計画)を続けることができる。それは、敗戦以来の右派のアジェンダではあるが、同時に安倍氏の家系的遺産の賜物でもある」と分析している。
さらに、ル・モンドは安倍晋三という政治家が伸長したもうひとつの背景として、バブル崩壊による経済ナショナリズムへの致命的打撃と、その後の長引く不況を指摘。平和主義に対する疑念も膨むなかで、右派が、日本の“作られた神話”に遡る歴史に根差したナショナルアイデンティティの感覚をかきたてようと企てていると記している。
〈第二次世界大戦をめぐる歴史認識は常に左右の思想対立の中心にあったが、日本の精神の特異性に基づく神話的アイデンティティは副次的なテーマであった。それ以降、ネオ・ナショナリズムのアイデンティティは、論争の的となっている歴史の書き換えと組み合わされて、国家の最高レベルが示す統合の物語を志向している。それには二つの面がある。安倍氏の言う「美しい国」、起源への回帰と、軍国主義時代に犯した残虐行為を最小化どころか否定しながらなされる帝国日本の復権とである。逆説的だが、明仁天皇は、天皇という立場に課された制約上可能な範囲で、こうした歴史修正の動きに抗っている〉
本サイトでも度々触れてきたように、安倍政権は単なる外交問題の一つとして歴史認識問題を位置付けているのではない。安倍が日本会議らと歩調を合わせ進める歴史修正主義は、復古調の国家主義と確かに対になっている。日本国内のマスコミが歴史修正主義と国家主義の綿密な関係をほとんど報じないなか、海外メディアがこうした指摘をしているのは極めて重要だろう。
事実、2016年の伊勢志摩サミットの際、自らの強い意向により各国首脳を伊勢神宮に招いたが、周知のとおり、皇祖神とされる天照大神が祀られている伊勢神宮は、戦前・戦中の日本を支配した国家神道の象徴である。ル・モンドの記事では、わざわざ安倍首相が伊勢神宮に各国首脳を招いたことこそ、日本の右派が取り戻そうとしている「Japon éternel」であると強調したうえで、安倍が当選後すぐに身を置いた自民党の「歴史・検討委員会」とその系譜を継ぐ活動を支援していることに言及。〈日本の戦争は自衛であって侵略ではない〉という認識に積極的に加担してきたことを記している。