というのも、系列誌である「ビッグコミックオリジナル」や「ビッグコミックスピリッツ」を含め、「ビッグコミック」は、「戦争」や「憲法」といった問題を読者に問い直す特集を何度も組んできたからだ。
15年には、安部晋三首相による「戦後70年談話」発表を前にして、「ビッグコミックオリジナル 戦後70周年増刊号」を出版。水木しげる、松本零士、花輪和一、滝田ゆう、山上たつひこといった錚々たる大御所に加え、浅野いにお、さそうあきら、三島衛里子といった最近の漫画業界を牽引する注目作家まで、新旧取り揃えた作家たちによる描きおろしと再掲をあわせた16作品を掲載した。それらの作品は、「戦後70周年増刊号」の名の通り、どれも「戦争」を題材にしたものである。
そのなかでもとくに注目を集めたのは、その年の11月に亡くなってしまった水木しげるによる描きおろし作品「人間玉」。
本作は水木自身の戦争体験を題材としたもので、舞台はラバウル島に向かう輸送船。水木二等兵をふくむ兵隊たちは「ドレイ船以下」の状態で船底に押し込まれている。ここで敵襲の号令が鳴る。甲板へ出るには、一本の縄ばしごで上がるしかない。死に物狂いで縄につかまろうとする幾百人もの若い兵。人間に人間がしがみつき、結局身動きがとれなくなって、まるで巨大な玉となってしまう。その中ほどにいる水木は応戦の前に危うく窒息死しそうに……。
本作について水木は、次のようなコメントを寄せている。
〈この船に乗っている時は「死」とか「無」に向かっていくような気持ちだった。だから、誰も先のことは考えないようにしていたネ。まもなくこの演習のような、そういう「死」を迎える状態がくるんだな、と思っていた。「ストップ人間玉!」だ。〉
編集後記によると、戦後70年談話に軽くぶちあてるくらいの気持ちで始まったこの企画は、安保法制をめぐる問題などの事態の進展を受けて、どんどん「緊張感をはらんだ物」になっていったそうだ。
〈漫画家はやはり自由の民です。本能的にお上の胡散臭さを嗅ぎ分けてますし、自分の生死は自分の戦場で決めたいと考えています。だからこの増刊は時代のカナリアかもしれません。〉