その実績を鑑みると「月2万円」は、いささか少なすぎると思わずにはいられない額である(ちなみに、「ようかい体操第一」直後に受け取ったボーナスはさすがに〈高級時計がいくつか買えるくらい〉だったと同書で明かしている)。
エイベックスの給料問題といえば、これはタレントに対する給与ではなく社員に対する給与の問題だが、「残業代を適正に払っていない」として、労働基準監督署から是正勧告を受けた件は記憶に新しい。
それは、昨年12月のこと。エイベックス・グループ・ホールディングスは「実労働時間を管理していない」、「長時間残業をさせている」、「残業代を適正に払っていない」として、三田労働基準監督署から労働基準法に基づく是正勧告を受ける。
電通社員の過労自殺に端を発し、長時間労働問題について社会的議論が巻き起こっていた時期だっただけに、慎重な対応が必要だったはずなのだが、この労働基準監督署からの是正勧告を受けて松浦勝人社長が出したメッセージは、そういった問題意識にあまりにも逆行するもので、文章が公開されるやいなや大炎上した。
昨年12月22日、オフィシャルブログ「仕事が遊びで遊びが仕事」のなかで、松浦社長は〈このことに対しては現時点の決まりだからもちろん真摯に受け止め対応はしている〉としながらも、是正勧告についてこのように結論づけていた。
〈望まない長時間労働を抑制する事はもちろん大事だ。ただ、好きで仕事をやっている人に対しての労働時間だけの抑制は絶対に望まない。好きで仕事をやっている人は仕事と遊びの境目なんてない。僕らの業界はそういう人の「夢中」から世の中を感動させるものが生まれる。それを否定して欲しくない〉
確かに、エイベックスのようなエンターテインメント産業の仕事は9時5時では対応できないものなのは確かで、そういった環境でも適切な労働環境が保たれるよう働き方の多様性について議論されるべきなのは間違いないが、それでも松浦社長の言い分はおかしい。「好きでやっているかどうか」は過重労働の問題とはなんの関係もないし、彼の言うような「好きでやっている」仕事のおかげで過労死まで追い込まれた例も枚挙に暇がないからだ。多くの労働者を抱える経営者のものとして、この発想はあまりに危うい。
ちなみに、この件に関しては、今年5月、未払いになっていた数億円規模の残業代を支払うことを公表。また同時に、今後は裁量労働制の導入など、従業員が柔軟な働き方を選べるようにするとも発表されている。