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東電・柏崎刈羽原発が再稼働へ! 恩田陸が描いた「原発事故後の日本」…利権のため再稼働を進める政府への怒り

 あらすじや作者本人の発言を聞くと、この『錆びた太陽』という小説はなにか堅苦しい物語のように思えてしまうかもしれないが、実際に読むと、『太陽にほえろ!』や『トラック野郎』など昭和のアクション系ドラマや映画からオマージュされた、ややスベリ気味(失礼!)なギャグが満載のリーダビリティの高い小説で、人間味溢れるゾンビが出てくるシュールな笑いに満ちたシーンなどは、映画『アイアムアヒーロー』なども連想させる。だが、そのようなコメディ的作風が選ばれたのは、彼女がそれだけ現状に怒りと絶望を抱えているからに他ならない。

〈近年、我々の生きるこの世界はあまりにも矛盾と不条理に満ちている。眩暈を通り越して、しばしば笑ってしまうほどだ。いや、これはもう笑うしかないという心境になってきている。だから、今我々に必要なものはコメディだ。悲劇は視点を変えればもはや喜劇でしかない。私が時々むしょうにコメディが書きたくなるのは、たぶん心のどこかで深い絶望を感じているせいなのだろう。
『錆びた太陽』は、そんな何年かに一度巡ってくる「絶望の季節」に降ってきた話である。〉(前出「一冊の本」)

 直木賞受賞後の会見で「今後どんな小説を書いていきたいとお考えになってらっしゃいますか?」という質問に彼女はこのように返していた。

「私は自分のことをエンタメ作家だと思っていて。昔は一息で読めるもの、あっという間に読めてしまうようなものが面白いと思っていたんですけれど、面白さにも色んな種類があって。ちんたら読んだりとか、ときどき立ち止まって、続きを間を開けてから読んだりとか、面白さには色んな種類があるので、これからは色んな種類の面白さを体感できるような小説を書いていきたいと思います」

『失われた地図』も『錆びた太陽』も、テーマはそれぞれ「ナショナリズム」と「原発」で、重くシリアスなものだが、基本的にはエンタメ小説で、読んでいると続きの展開が気になってなかなか本を閉じることができなくなってしまう本である。しかし、読み終えたあとには、現在の日本が置かれている諸問題について発信された彼女からの疑義について一考せずにはいられなくなる。それこそが、彼女の言う「色んな種類の面白さ」だろう。

 いま日本では、カルチャーやエンタテインメントに政治をもち込むなという主張が跋扈しているが、そんな状況のなか政治的なテーマを扱いながらエンタテインメントとしても昇華しようとする恩田陸の試みには非常に大きな意味があるだろう。

最終更新:2017.10.05 01:08

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