──日本ではヘイトの定義への認識不足のため、丁寧な言葉で差別表現をするのと、荒っぽい言葉でそれを批判するのとでは、後者の方が問題視されがちだと言われている。その影響はあると思うか。
最近よく言われるトーンポリシング(議論や主張の中身ではなく、言葉使いや態度を問題視すること)の問題ね。これはあると思う。英語の「ヘイトスピーチ」に「憎悪表現」という訳語を与えた人は万死に値する。差別者が特定の出自をあげつらい、「朝鮮人死ね」と書き込むのも、それに対して「差別すんなよ、アホ、ボケ、死ね」と怒りをぶつけるのも、権力者や政治家を「こいつはバカで無能」と批判するのも、あるいは個人間のトラブルやケンカで「この外道が」と感情的に罵るのも、すべて混同され、「反ヘイトの連中のほうがヘイトだ」などと、ネトウヨや浅慮な人間に言わせる状況を作ってしまっている。
ヘイトの定義を最も明確に、短い日本語で表した無料で読める文章は、皮肉にもTwitterルールですよ。〈人種、民族、出身地、性的指向、性別、性同一性、信仰している宗教、年齢、障碍、疾患を理由とした他者への暴力行為、直接的な攻撃、脅迫の助長〉と書いてある。さらには、〈以上のような属性を理由とした他者への攻撃を扇動すること〉も定義に含めている。しかし、これほど明確に定めた禁止事項が、今の日本のTwitterでどれだけ守られているのか。
Twitter Japanの代表(笹本裕・代表取締役)が「Twitter社員は全員がNo Hateを願う」と宣言していたけど、じゃあそのための取り組みをどれだけ真剣にやっているのか、おおいに疑問だ。
──Twitter Japanの笹本氏については、ネトウヨ向けニュースサイトのnetgeekを愛読しているとの指摘がある。また、同社が自民党に親和的で、政権や自民党への批判は削除・制限されやすく、菅野さんのアカウント凍結もそれが理由だという見方もある。いずれも明確な根拠はなく、憶測の域を出ないが、これについては。
笹本氏がどうかは知らないが、日本のIT業界人に共通する問題はある。彼らはだいたいが2ちゃんねるやニコ生で育ってきた世代。ああいうところの(ネトウヨ的)文化やノリにどっぷり浸かって、それがよいと思ってきた人たちでしょう。そこで染み付いた価値観や物の見方・考え方が、業界の全般的な傾向を決めていると僕は見ている。
付け加えて言うなら、今40代から50代になっている彼らは、ガンダム世代でしょう。価値相対主義が強烈に刷り込まれている。
──というと? もう少し詳しく。
ガンダムというのは価値相対主義のストーリーなんですよ。地球連邦とジオン、敵対する両者にそれぞれ理があり、正義があり、弱いところもあるというふうに描かれている。それに影響を受けた人たちは、差別する側にも彼らなりの正義があり、差別される側にも相応の理由があると考えてしまう。
──絶対的な善悪はなく、超越的な視点で「どっちもどっち」と見てしまうということ?
そう。やや飛躍があるかもしれないけど、僕はそういう傾向があると思っている。