これについては当時から「足利事件で大きな批判を浴びているのに、死刑案件の飯塚事件まで冤罪が明らかになれば司法当局のメンツがもたない。そのため臭いものに蓋をしたのではないか」「死刑執行で冤罪を隠蔽した」といった批判や疑惑が指摘されていた。
実際、久間氏の死刑執行から約8カ月後の2009年6月に菅谷氏が釈放されると、DNA型鑑定に注目が集まった。しかも、菅谷氏と久間氏のDNA型鑑定は、検査法が同じだっただけではない。「じつは飯塚事件と足利事件のDNA鑑定は、科学警察研究所の同じ技官が、同じ方法でおこなっていた」というのである。
技官も方法も同じ、さらには検査時期もほぼ同じ。つまり、足利事件と同様、飯塚事件のDNA鑑定も誤りがある可能性が高いということだ。
また、裁判で証拠として提出されたDNA型鑑定のネガフィルムが意図的に切り取られており、カットされた部分には久間氏でも被害者でもないまったく別のDNAが存在していたことが明らかになっている。その上、弁護団側がおこなった再鑑定でも、犯人と久間氏のDNA型は一致しなかった。
絶対的証拠だったはずのDNA型鑑定が間違っていた可能性だけでなく、意図的な捏造疑惑が浮上している飯塚事件。そして死刑執行後の2009年、久間氏の妻が異例の再審請求をおこなうが、2014年に福岡地裁はそれを棄却。その理由は驚くべきものだった。
「(DNA鑑定は)『鑑定結果を直ちに有罪認定の根拠とすることはできない』として、事実上、証拠から排除したのである」「それでも裁判所はDNA鑑定を排除しても、それ以外の状況証拠で判決は正しかったと結論づけた」
決定打とされたDNA型鑑定は証拠から外すが、再審は行わない──。都合の悪いことは“なかったことにする”。これを欺瞞と言わずしてなんと言おう。しかも、すでに犯人とされた者が国家によって死刑が執行されている重大案件なのだ。番組では、久間氏の妻が「最初はDNA鑑定が一致したとして逮捕されたのだから、そのDNA鑑定が一致していないということであれば、これは犯人でないということなんですよね。だから、そこがすごくおかしいと思いました」と強く怒りを訴えているが、その通りだろう。
だが、DNA鑑定の結果が排除されても、まだ疑うべき重要証拠はある。血液型だ。当初、遺体から発見された血液は被害者と犯人の混合血液で、警察はこれをB型と断定。久間氏の血液型もB型だ。しかし、弁護団の鑑定ではAB型だという結果が出たのだ。
また、「久間氏の車内座席から検出された血痕の血液型が被害者の1人と一致した」という証拠についても、弁護団は「血痕の血液型は久間氏の家族とも一致する」と主張。「被害者に付着した繊維片が久間氏の車座席シートと類似している」ことも、「シート繊維の鑑定は全種類の車でおこなったわけではなく久間氏の車しか対象にしていない結果」でしかない。