たとえば、1991年8月27日の参院予算委員会では、当時の柳井俊二・外務省条約局長が日韓請求権協定をめぐり、“両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決した”(日韓請求権協定第二条)の「意味」について、以下のように答弁している。
「その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます」
見てのとおり“日韓請求権協定は個人の請求権を消滅させていない”と、日本の外務省も認めているのだ。柳井氏はその後、事務次官まで上り詰め、駐米大使も務めた外務省本流の官僚だが、他にも国会で何度も同じ旨の答弁をしている。もうひとつ、1992年2月26日の衆院外務委員会の答弁を引用しておこう。
「しからばその個人のいわゆる請求権というものをどう処理したかということになりますが、この(日韓請求権)協定におきましてはいわゆる外交保護権を放棄したということでございまして、韓国の方々について申し上げれば、韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求を提起するということまでは妨げていない。しかし、日韓両国間で外交的にこれを取り上げるということは、外交保護権を放棄しておりますからそれはできない、こういうことでございます」
「この条約上は、国の請求権、国自身が持っている請求権を放棄した。そして個人については、その国民については国の権利として持っている外交保護権を放棄した。したがって、この条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではないということでございます」