たとえば、公務員獣医師の不足や獣医師の地域的な偏りについては、その土地に獣医学部ができたからといって解決できるものではない。事実、直近で獣医学部ができた青森県や、3つの獣医学系大学を擁する北海道でも公務員獣医師の募集定員を確保できず定員割れを起こしている。その原因については、ペット獣医の人気が高いこと、そして公務員獣医師の初任給が月約20万円という待遇の悪さが指摘されている。つまり、公務員獣医師の不足は四国に限った話ではなく全国的な問題であり、定員割れを解消するためには待遇改善が先決となっているのだ。
こうした問題を農水省も把握し、解消に向けた待遇改善をすでに打ち出しているのだが、しかし、加戸氏はそれを無視して、“獣医師会の陰謀”とばかりに、こう語った。
「獣医師会の反対は何かと申しましたら、処遇しないからだと。愛媛県は、四国は獣医師の給与体系を国家公務員の獣医師よりも上回る体系をつくることができるのか。じゃあ、それは、獣医師が充足されたときは給料を下げるのか。愛媛は給料が安いから行かないんだよとか、奨学金を出さないから行かないんだよ、全部東京にきたら養成して返すからと、そういうことでいいのかなということがひとつ」
当然の指摘も“獣医師会の横暴”にすり替えてしまう加戸氏。それは教員確保の問題でも同じだ。
「論議を聞きながら思いますのは、少なくとも私の知る限り、提案した時点から東京の私学の獣医学部は45人とか50人とか50数人の教授陣容のままで時代の進展に対応しないまま、今日にきております。そのなかで今治で計画しております獣医学部は72人の教授陣容で、ライフサイエンスもやります、感染症対策もやります、さまざまなかたちでの、もちろんそれは既得の医学部の一分野でやられているかもしれませんけども、そういう意欲をもって取り組もうとしている」
学生数に対して教員数が不足している既存の獣医学系大学に対し、加計学園が新設する獣医学部は72人も教員を配置し、新しいニーズに応える獣医学教育を展開するのに、なぜ足を引っ張るのか。それが加戸氏の主張だ。
だが、ライフサイエンス分野の研究や感染症対策という意味では、加計学園と同じように挙手していた京都産業大学のほうが提案が優れていたというのは誰の目にもあきらかだ。そして、京産大は先日行った会見で、事業者公募の際に開学が平成30(2018)年4月と期限が切られていたことから「教員の確保などを考えるとタイトなスケジュールだった。準備できなかった」として新設を断念した理由を明かした。一方、今治市や加計学園は遅くとも2016年8月の段階で内閣府より2018年4月開学予定だと伝えられており、このスケジュールに合わせて校舎建設を行ってきた。教員確保も同様だ。こうした行為が「加計ありき」と呼ばれている一因であり、決定プロセスにおいて「行政が歪められた」と批判されているのに、加戸氏はこのような“不正の結果”を「加計の意欲」だと言い張るのである。
しかも、加戸氏は答弁でこんなことまで口にした。
「薬学部、医薬分業がありまして、いっぺんに入学定員が6000人近く増えました。大学の数も2倍近く増えました。でも、そのことにかんして、需要ではどうだ、供給ではどうだ、挙証責任がどうだ、誰も問題にされていなかったと思います。で、いま、何が起きているかというと、今後何万人という薬剤師の過剰供給、それをどうするかというのが深刻な問題だということになっています。片や、獣医学部はビタ一文ダメです」
「その、なんと言うんでしょうか、イビリばあさんじゃありませんが、薬学部ならどんどんつくっていいけれども獣医学部はビタ一文ダメと、こんなことは一体この国際化の時代に、欧米に遅れてはいけない時代に、ありえるんだろうかというのが私の思いでまいりました。屁理屈はいいんです」