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共謀罪成立でこんな言論弾圧が…一枚の集合写真で出版関係者や研究者ら60人が検挙された横浜事件の恐怖

 ただ、事実はそうでない以上、逮捕された者たちは当然否定する。では、警察はどうするか? その答えは簡単だ。力で首を縦に振らせたのである。そこで登場したのが「小林多喜二が、どんな死に方をしたか知っているか!」という言葉だった。

 この一連の事件で逮捕された中央公論社の畑中繁雄氏は『日本ファシズムの言論弾圧抄史 横浜事件・冬の時代の出版弾圧』(高文研)のなかで、自身が受けた拷問についてこのように記している。

〈「やい、いつまで白をきってやがるんだ。なぜ、私は共産主義運動をいたしましたって言わねえのかよ。なげえあいだ害毒を流してきやがったくせに……」
 私には、なんのことだか見当さえつかなかった。いらだつ気もちは急に腹だちに変わっていった。
「それは、いったいどういう意味ですか」
 つとめて冷静に問いかえそうとした、私のその反問はてもなく無視されて、森川(引用者注:神奈川県特高警察の森川清造警部補)の怒声がはねかえってきた。
「なにをこの野郎、太え奴だ。れっきとした共産主義者のくせしやがって!」〉

 警察がでっちあげた青写真通りに供述しない畑中氏。そしていよいよ暴力の行使が始まる。

〈瞬間、かれの腕が伸びて、私は頭髪をひっつかまれた。態度を豹変した森川は、ぐいぐい私の頭髪をひっぱって、畳の上にねじ伏せ、頭を自分の膝の間に押しいれるようにした。前のめりに倒された私の両腕は、屈強な二人の刑事によって後ろ手にねじりあげられ、両頬に力まかせの平手打ちがくりかえされた……。「共産主義運動をしたってことを、一言でも否認してみやぁがれ、どうなるか思い知らせてやってもいいんだぜ」「やい畑中! 手前は小林多喜二がどんな死に方をしたか知っているか」「俺たちはな、共産主義者のアバラの一本や二本は、みんなへし折ってるんだ。検事局でもな、共産主義者は殺してもいいってことになっているんだ」「みんな血を吐きゃあがってから、申しわけありませんとぬかしゃあがるんだが、そのときはもう遅いんだ……」──こうしたテロと怒号のうちに、やがて脳髄に沁みいるような疼痛と、朝からの疲労で、身も神経もさすがに弱りかけたとき、膝もとに一片の紙きれをつきつけられ、私はひき起こされて、一人の男に後ろからはがい締めされたようなかっこうになった。と、私の右手は他の刑事によって鷲づかみにされ、私は有無をいわず拇印をとられた。うつろなものになっていた私の目にも、紙片の上に「私は共産主義の運動をいたしました」という、文字が読みとられたのである〉

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