早川タダノリ『「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜』(青弓社)
「私 日本人でよかった。」ポスターのお粗末な裏事情
最近、ネット上で物議を醸していた「私 日本人でよかった。」のポスター。だが、ここにきて、実はこのポスターのモデルの女性が「日本人」でもなんでもなく、中国人だったということが明らかになり、さらなる盛況を見せている。
念のため振り返っておくと、「私 日本人でよかった。」のポスターとは、全国約8万社の神社を包括する宗教法人・神社本庁が2011年に制作したもの。
背景には日章旗、アップにされた女性の頬の丸いチークも日の丸を連想させ、下部には「誇りを胸に日の丸を掲げよう」との文言。あまりに直球な「国威発揚」と、「日本人」であることへの得体の知れない無条件な優越感、そして「日本人」以外を下に見る差別的主義をまき散らすこのポスターは、先月、ツイッター上で「京都のあっちこっちにあった」との報告があり、にわかに話題となったのだ。
ところがそのなかで、女性の写真がアメリカの画像代理店「ゲッティ・イメージ」が販売する素材だった事実がネット上で指摘され、「Buzz Feed Japan」や「ハフポスト」などのメディアが追跡。そして、ハフポストが〈ポスターに使われた写真を撮影したLane Oateyさんが5月10日、「モデルは中国人で間違いない」と断言した〉と報じたことで、現在、一種の炎上的な勢いで盛り上がっているのである。
実にトホホな話である。というのも、神社本庁は極右的改憲などの復古的な運動で安倍政権と足並みをそろえている。連中は普段、もっともらしく「日本民族固有の精神性」とか「万世一系の天皇を戴く特別な国」というふうに主張し、ナショナリズムを喚起しようとしているが、このポスターの騒動でわかったのは、実際にはその素材自体がグローバル市場で流通されたものであって、ましてや「私 日本人でよかった。」なるコピーも“張りぼて”でしかなかったという事実だ。
そもそも、このポスターは制作からすでに6年も経過しているが、これを各神社に6万枚も配ったという神社本庁の関係者は、誰一人、モデルが「日本人」ではなく中国人であることに気がつかなかったことになる。
いったいどの口で“日本人の固有性”なるものを喧伝しているのか呆れざるをえないが、ようするに、連中が浸透させようとしているナショナリズムが、偏狭かつ差別的なだけにとどまらず、いかにテキトーに生み出したものであるかがはっきりわかったわけである。少なくとも“張りぼて”の「日本人でよかった」から飛躍して「日の丸を掲げよう!」とするその言い分に、説得力などかけらもあるまい。