●安保法制問題に揺れた時期、歌丸が表明した戦争反対の姿勢
歌丸は安保法制に関する議論が日本中で白熱していた一昨年前、インタビューでこのように発言したことがある。
「今、日本は色んなことでもめてるじゃないですか。戦争の『せ』の字もしてもらいたくないですよね。あんな思いなんか二度としたくないし、させたくない」
「テレビで戦争が見られる時代ですからね。あれを見て若い方がかっこいいと思ったら、えらいことになる」
「人間、人を泣かせることと人を怒らせること、これはすごく簡単ですよ。人を笑わせること、これはいっちばん難しいや」
「人間にとって一番肝心な笑いがないのが、戦争をしている所」(朝日新聞デジタル15年10月19日)
古典落語の正しい継承を訴える歌丸の言葉の裏には、古典落語がもつ高い芸術性の保全という他に、戦中の落語界がたどった悲しい歴史に対する思いもあると見るのはうがち過ぎだろうか?
ちなみに、本稿冒頭に引いた「引退」話には続きがある。『古舘伊知郎ショー』のなかで彼は、冗談めかしながらこんなふうにも語っていた。
「もう今年で81になりますからね、辞めようかどうしようかって迷っているうちにあっち行っちゃおうと思うんです(笑)」
「もうひとつね、欲の深い考えもってるんです。『桂歌丸引退興行』っていって生涯それで回って行こうかと。儲かると思いますよ(笑)」
引退の真相がどうなのかは藪の中だが、いずれにせよ、歌丸が高座に上がる限り、我々は彼から学ぶべきことがたくさんあるだろう。
(新田 樹)
最終更新:2017.11.24 06:33